チーム一丸で目指したのはバランスの高い完成度
当たり前のことを当たり前以上の熱意で取り組む。そんな開発は、トヨタ車体のメンバーにとっては、これまでにやりたいと考えて温め続けてきたさまざまなアイディアを生かすチャンスにもなったという。
「一般的なクルマよりもずっと大きなサイズで、しかも箱型。乗降性のために開口部も大きい。つまり、ボディのねじれやすい要素がたくさん揃っているクルマなんです。丸く作れば解決できることもたくさんありますが、今回はそこに逃げずに取り組みました。たとえばサイドメンバーですが、一般的なクルマなら、部品などの配置の都合でまっすぐ通せない部分も、極限までまっすぐに作ってあります。そのおかげでクルマの素性そのもののランクが格段に上がっています」
サイドメンバーをまっすぐに通す。それは簡単そうに聞こえるが、その実、きわめて難しいことのひとつ。2019年に発売された新型スープラでも、太くストレートに通した骨格によりボディ剛性を高めたことが話題になったが、「走り」という絶対命題のもとで「割り切り」しやすいスポーツカーと新型グランエースとでは事情が違う。
居住空間の確保や、乗り心地の快適性、静粛性など、全方位で高いレベルが求められるクルマは「割り切る」ことが難しく、とてつもない苦労があったことは想像に難くない。製品企画の立場から、プロジェクトに携わった秋田基行さんは次のように語る。
「確かに難しいクルマづくりでした。けれど、大きな四角いクルマというのは、われわれトヨタ車体がもっとも得意としている分野。持てる力をすべて結集すれば絶対に実現できるという確信はありました。開発で心がけたのは、部署の垣根を取り払って目標に向かうこと。それは、特定の領域だけが飛び抜けた性能を出すのではなく、全体がいいバランスを保ちながら高い次元を目指すために必要だったことです」
「開発メンバーが試作車に乗れる機会をほかの車種開発のときよりも格段に増やし、乗る顔ぶれの幅も広げました。なにか課題が見つかったときでも、すべての領域のメンバーが一丸となって解決に当たれる、そんな雰囲気のもとで取り組んできたんです」
インタビューの最後に、石川さんから面白いエピソードを聞かせていただいた。それは車両のコンセプトと概要がほぼ決まった段階での話。豊田社長も同席した重役へのプレゼンの場面で、石川さんはボディサイズをわかりやすく伝えるために、平面値の寸法はトヨタ・センチュリーとほぼ同じであることを説明した。それを聞いた豊田社長は、「そうだ。新型グランエースは、ミニバンのセンチュリーを目指そう」と答えたという。
「その瞬間、目指すハードルが一気に上がった感じがしましたが、コンセプトを磨き上げていくうえでとても重要なヒントにもなりました」(石川さん)
当たり前のことを徹底的に突き詰め、その苦労を相手に感じさせることなく快適さに浸ってもらう。それはまさに、日本が世界に誇る文化のひとつである「おもてなし」の精神と同じもの。新型グランエースは、これから増えるであろう多くの海外VIPたちを、その精神とともに安全・快適に目的地へと送り届けることだろう。