目指したのは本物以上の本物感
インテリアデザインについても見てみよう。目指したのは、富裕層のパーソナルユースにも対応する「上質さ」と「華やかさ」を備えた室内空間。インテリアデザイン担当の前田光照さんにうかがった。
「とくに意識したのは『おもてなし』の精神です。スライドドアを開けたときの佇まいや見え方も、VIPをお迎えするときのおもてなしのひとつと考えてデザインしました。目指したのは、誰が見てもわかるけれど、決して華美ではない高級感。とても落ち着けるけれど、背筋が気持ちよく伸びるような、そんな凜とした美しさを感じさせる高級感です」
「そのために必要なのは、各ディテールの配置や比率といった素性のよさをとことんまで引き上げ、それぞれの要素を徹底的に磨き上げること。たとえば木目の配置や金属加飾との組み合わせ、大きさ、バランス、それぞれの断面など、あらゆる要素を磨き上げて、工芸品のように見える仕立てのよさを目指しました」
インテリアのクレイモデラーである岡田 渡さんも次のように語る。
「加飾の本物感にも徹底的にこだわりました。たとえば金属調加飾。デザイン検証の際には、本物の無垢のアルミをヤスリの手作業で研ぎ出して作ったものをクレイモデルに組み込んだりしたんです。ふつうはクレイ(工業用粘土)で作るんですが、それだとどうしてもクレイの質感に引っ張られてしまう。最近はデジタルの技術も発達していて、それこそ本来ならアルミではありえないような曲がり方をしたアルミ調の加飾を作り出すこともできます」
「けれどグランエースでは本物感の徹底的な追求を行ったんです。金属ならではのエッジの立ち方、エッジが立っているのに伝わってくるしっとり感。そんな本物だからこその質感を、実際に本物の金属と作業で作り出し、その手触りで得た実感を製品に落とし込んだんです」
金属調加飾と組み合わされる木目調加飾にもこだわりは貫かれている。語ってくれたのは、カラーデザイン担当の河本俊治さん。
「今回の加飾では、木目の柄のフィルムの裏側に光輝のシルバーを塗装して、その上に柄を乗せるという手間をかけています。光の当たる角度で見え方が変わるという手法で、これにより本物以上の木目の質感を目指しました」
木目と金属調加飾のコンビネーションは、室内イルミネーションとともに、乗員が座った際に腰のあたりとなる高さで、囲うようにまわされている。あえて室内を天井から明るく照らさず、影の深みをしっかり演出することで、加飾のコンビネーションはまるで伝統的な日本家屋で見る蒔絵にも似た美しさを見せる。「VIPのなかには、天井から顔を照らされるのを好ましくないと考える方もいらっしゃいます。そうしたことにも配慮したデザインなんです」(前田さん)
日本の「おもてなし」が世界で類をみない独特の文化となっている理由。それは日本人ならではの「察しと思いやり」「つつしみ」といった美意識が根底にあるからこそだ。作り手の苦労を気付かせず、心ゆくまで快適な気分を味わってもらう。そんな開発チームの意識を感じさせる新型グランエースのデザインは、まさに日本の「おもてなし」の精神をカタチで表わしたクルマと言えそうだ。