曲がりたい方向に引くほうがスムースに走れる
そしてじつは握る位置よりも重要なのがハンドル操作の方法なのだ。多くの人は自分流の操作方法が身についていると思う。多くのドライバーは教習所で教わった操作方法がベースにあって、そこから自分の操作しやすい方法に発展していったはずだ。俗に言われる「内掛けハンドル」や「ストレートアーム」は推奨できないが、それが習慣になってしまっているドライバーも多勢いるだろう。トラックドライバーのように大径ハンドルを操作する場合は内掛けハンドルを多用するので、それを乗用車でも行ってしまう。普段馴染んだ操作を急に変えるのは難しい。
免許を取得してこれからマイカーを持とうというビギナーだったら、最初から正しい操作を心得としておけば身に付くのも早い。
そこで推奨したいのは「プル(引く)」方式の送り操作だ。右に曲がろうとする場合、教習所では左手を「プッシュ(押す)」操舵から始めると教えているだろう。それに対し「プル」は右手を引き下げるのが最初のアクションになる。このプッシュかプルか、という議論はプロドライバーの間でも長年語られており、教習所を含め世のなかの大多数はプッシュ式を勧めている。
私のようにプル式を習慣化しているのはレーシングドライバーに多い。それはハイスピードドライビングでは絶対にミスが許されず、精緻な操作が求められているからだ。「ハンドルを切り損ねた」ら生死に直結するため絶対にしてはならない。
ハンドルを切り込めばクルマは旋回し始め横G(重力)が発生する。ハイスピードになるほどGフォースが高まり、ハンドルを操作する両手にもGがかかり正確な操作が難しくなる。プッシュ式はGがかかるのに抗する方向に手を押し上げていかなければならないので余計に力が必要になる。レーシングカーで言えばただでさえ重いステアリング操作力に加え、大きなGフォースにも耐えなければならないのだから腕にかかる負担が大きい。
プル方式であればハンドルを切り下げると切り増す方向にGが掛かっていく。腕力を使わなくてもグリップをしっかり握っていれば自然に転舵でき、余った力で正確に微操作を行える。また現代のクルマはほとんどがパワーステアリングを装備しており、一般道を安全な速度で走っていればハンドル操作に苦労を感じることもないだろう。だが旧車でパワーステアリングが装備されていないクルマであれば、プッシュ式ではすぐに疲れてしまうとわかる。
普段はプッシュ式でゆっくり走り、サーキット走行やスポーツ走行、パワーアシストのないクルマを走らせるときはプル式に、と柔軟に切り替えられればいいが、多くの人は急に操作方式を変えられない。まずはプル式をマスターし身につけておくことが緊急時にも助けとなる。
プル式を操舵の基本として考えるならば、ハンドルの持ち位置は引き代を大きくとれる10時10分が理に適ってくる。この持ち位置を身につけていれば乗用車からレーシングカーまで何でも乗りこなせるようになれる。ぜひ参考にしてもらいたい。