レースにおいても燃費マネージメントは重要な要素のひとつ
レースカーは燃費より速さを追求したマシンだ。だが地球環境の悪化と資源保護の観点からレースにも燃料の節約が求められ、チームはエンジンのマネージメントとドライビングで厳しい燃費ルールを勝ち抜いていくしかなかったのだ。
速さのみが求められる予選はターボエンジンのブーストをできる限り高く設定し、予選用のハイグリップタイヤを履いてアクセル全開時間を長く保ち、アタックする。そこでマークしたタイムが当時の富士スピードウェイのコースで1分20秒台。燃費的には1.8km/L弱だ。それがレースになると最速ラップでも1分23秒台。コンスタントには1分25秒台と3〜5秒も遅くなる。燃料がゴールまで持つかどうかわからない状況では1分27秒、30秒台にまでタイムを落とし、ガス欠ギリギリでゴールすることになる。
僕はこのレースで優勝を飾れたが、燃費マネージメントに失敗したチーム、マシンは最終ラップにガス欠に陥りコース上にストップしてしまったり、それを恐れてピットインしてゴールまで待機(使用可能燃料総量が決まっているため再給油できない)したりと荒れたレース展開となることもしばしばだ。
当時はテレメータリングシステムが投入された初期段階で、マシンがコース走行中にどれほど燃料を消費しているかが無線でピットに送られるようになっていた。ピットではエンジニアがそれを集計し、ペースをドライバーに指示する。「前の周は燃料使い過ぎだから500回転下げてシフトしろ」とか具体的に指示される。しかし、僕の場合は逆で「もっと飛ばしてもいいぞ」と指示がくることのほうが多かった。それは燃費節約法を理解して最初から行っていたからだ。
燃費節約にもっとも効果があるのはアクセルを踏まないことだ。しかしレースである以上速さも必須。そのためにエンジンの使用回転数をなるべく下げて時間当たりの燃料消費を抑えつつ、ターボ過給による低速トルクの大きな領域を多用してラップタイムを稼ぐ。通常2速で回るコーナーは3速で、4速で回るコーナーは5速で走り、ストレートエンドではギリギリまでアクセルを踏み続けない。最高速域に達したら早めにアクセルを緩め慣性で走る。今のF1でも行われている「リフト&コースト」走行を実践していたわけだ。
ほかにもコーナリング中にステアリングを切る量を減らし、舵角抵抗を少なくする走法やそれを可能にするサスペンションセットアップ、クリッピングポイント手前からアクセルを緩やかに開きオーバーシュートブーストを回避しながらもターボのタイムラグを防ぐなどの措置が有効だった。
こうした操作で燃費は2.5km/Lほどにもなり本来決めていた担当の35周回数より「あと5周行け」、「もうあと3周行け」とピットインを遅らせさせられることもあった。体力的には35周で使い果たす気力で走っていたので「L(残りラップ)」が増えるのは辛かったけどね。
燃費に優れた走りができればレース中の給油時間を短くできるし、スタート前に搭載する燃料を少なくしてフューエルエフェクトを速さとして引き出すこともできる。「ふんわりアクセル」だけが燃費にやさしい走り方ではないということを知っておいてもらいたい。
※レース写真はイメージです。