小型ミニバンに「ほとんど座れない」3列目席が設定されたワケ (2/2ページ)

いつか使うかも……と3列シートを選んだ人が多数

 その理由は、かつての一大ミニバンブーム時代にさかのぼる。ミニバンで一世を風靡したホンダ車で言えば、オデッセイやステップワゴン、そしてストリーム、モビリオなどが全盛だったころの話だ。とにかくこのころは、3列目席があればクルマが売れた時代。ミニバン神話、というやつだ。

 もっとも、当時を振り返れば、モビリオの3列目席は大人が座るに座れないシート、空間だった。あくまで、緊急席という位置づけだ。その後、登場した、ストリームの事実上の後継者と目されるジェイドの3列目席もしかり。2列目席をV字スライドのキャプテンシート限定とし、最大6名乗車で3列目席が使いにくかったことから、販売は低迷。アコードワゴンの後継にもなりうる、2列シートのワゴンタイプとなるRSを追加して、なんとか、延命しているぐらいなのだ。

 それでも自動車メーカーが「ほとんど座れない」3列目席にこだわったのは、当時の我々ユーザーにも責任の一端がある。そう、ミニバンという響きだけでユーザーの購買意欲がわいたからである。つまり、3列目席はないよりもあったほうがいい、いつか使うかもしれない……そんな理由で、多くの人たちがこぞって3列シートのミニバンを求めたからだ。

 個人的に、ミニバンを延べ12年所有していた経験があるのだが、当時、4人家族+犬のファミリーのわが家の場合、3列目席に誰かを乗せたのは、12年間で10回に満たなかった。むしろわが家では1-2列目席と分離させた”愛犬専用席”として重宝していたのである。

 ゆえに、大人が快適に座れない、狭い3列目席に意味がないとは決して思っていない。友達6人が家に遊びに来て、急遽、駅まで送る、野球やサッカーをやっている子供がいて、輪番でみんなを送り届けるような場面では、短距離限定ではあるものの、狭い3列目席も大いに役に立つことは間違いない。最大5名乗車のクルマでは、用を足さないシーンである。

 意外にも、3列目席に大人がしっかり座れるシエンタの例では、同グレードで3列シートのシエンタと、2列シートの大容量ワゴンとなるFUNBASEの価格を比較した場合、2列シートのほうが、3列目席がない分、4万円ほど安くなる。が、3列目席を使う予定がないにもかかわらず、4万円高で3列目席が付いてくるならお得だ、などと考えるのはよくない。

 アウトドアやキャンプを楽しむようなユーザーで、ラゲッジスペースを優先する使い方なら、迷うことなく2列シートのFUNBASEを選ぶべきである。3列目席を格納したラゲッジスペースと、最初から2列シートでラゲッジをしっかり作りこんであるラゲッジスペースとでは、使いやすさが違うからである。

 話を戻すと、いま発売されているコンパクトミニバンなら、「ほとんど座れない」3列目席を持つクルマはない。シエンタを例に挙げると、身長172cmの筆者でも、3列目席のひざまわり空間には、最低でも40mmは確保されているし(膝をかかえるような体育座り姿勢は避けられないが)、乗降性もよく考えられている。

 また、大型3列シートSUVのCX-8なら、2列目席最後端位置でも膝まわり空間に50mm。2列目席の膝まわり空間が最大250mmのところ、180mmの位置までシートを前にスライドさせれば、3列目席膝まわり空間は120mmまで拡大し、大人でもしっかりと座ることができる。

 ただ、最初から3列シート仕様として設計されているCX-8は別にして、基本が2列シートのSUVに無理やり3列目席をつけた中型SUVだとそうはいかず、あくまで緊急席、補助席という設定だから(筆者の膝まわり空間で0mm~)、購入時には用途を含め、確認が必要だ(3列シート仕様の展示車、試乗車があればいいのだが、レアな仕様なので、たぶん、ない)。


青山尚暉 AOYAMA NAOKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント
趣味
スニーカー、バッグ、帽子の蒐集、車内の計測
好きな有名人
Yuming

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