足まわりのセットアップは実用に近い荷重をかけて行なっている
では、クルマの製造工程、とくに足まわりのセットアップはどうなのか。工場では当たり前だが、空車でクルマが作られる。が、実際の使用では、最低1名が乗車して走るのだから、その荷重分走行性能に違いが出ることが想定される。
某自動車メーカーに開発者の話では、以前は0名乗車状態のまま製造していたものの、つい最近から、より実用に近い空車に2名乗車分の荷重をかけて足まわりをセットアップしているのだという。その状態での締め付けトルクによって(手作業である)、操縦安定性や乗り心地が変わるからである。ちなみに、一般論として2名乗車で車高は20mm程度下がることになるから、その状態でセットアップすることが求められるのだ。
個人的なこれまでのミニバンの試乗経験からも、1~2名乗車とフル乗車では操縦安定性や乗り心地に変化があることは承知している。とくにミニバンのフル乗車では、動力性能の落ち込みはもちろんだが、良路ではともかく段差越えなどでのショックのいなし方、音、振動面で不利になる事実を経験している。
だからといって、自動車メーカーはフル乗車での走行性能、操縦安定性に対しても十二分に検証して開発しているから、それが危険に直結することはあり得ないが、乗り心地面などに極端ではないものの、多少影響する場合もあるということだ。
考えてもみれば、フル乗車が適値になるように開発してしまうと、現実的な平均乗車人数の1~2名乗車時に適値ではなくなってしまう。2名乗車を想定して乗り味をセットアップしているのは、正しいやりかただとも思える。何人乗っても乗り味がまったく変わらない……なんていうことは、とくに3列シートのミニバンでは荷重のかかり方が大きく違い、あり得ないことである。
よって「クルマの乗り味は何人乗車に合わせているのか」の答えは、某自動車メーカーのケース、おそらく多くの自動車メーカーでは、ズバリ、2名ということになる。