当時のピット施設を現物大にしたことで再現度はバツグンだ
僕が初めてル・マン24時間レースに参加したのは1989年だ。じつはこの年を最後に伝統的な6キロにも及ぶ長い直線区間であるユーノディエールは廃止され、古い佇まいのピットやグランドスタンドも現在の形へと改修されていくのだ。つまり映画のなかで再現されている旧いピットや観客席、VIP施設やプレスルームなど僕が実際に見たままに再現されているかがポイントとなった。
当時のル・マンのピットは本当に狭かった。スペアタイヤや工具を並べるともう一杯。ピット間隔も狭く隣のピットにチームと同時にピットインすることができない。レース中もそうした交渉を隣り合うチームのマネージャー同士で行っていた。そしてピット裏には暗くて狭い通路があり、そこをドライバーやメカニック、関係者が行き交っていたのが映画のなかで見事に再現されていた。
汚れたコンクリートの壁や足もとの泥濘なども忠実に描かれていたようだ。聞けば当時のピット施設を写真ベースで現物大のセットとして米国の古い空港跡地に建設したのだそうだ。ワイルド・スピードの「TOKYOドリフト」でも渋谷のスクランブル交差点の実物大セットを映画撮影の為だけに建設したというから北米映画のスケールには恐れ入る。
コースの再現性はしかし今一歩だと感じた。第一コーナーを抜けダンロップブリッジを通過しテルトルルージュコーナーを駆け抜けると、左手に賑やかな遊園地が闇夜に煌びやかに光り輝いていたが、1966年にはまだ遊園地がなかったのか映画には視界を奪うほどの眩しい輝きより漆黒の闇夜の方が優先されている。こうしたバックグラウンドの演出や走行シーン、クラッシュシーンなどは1970年の「栄光のル・マン」のほうがより現実的だった。
すでに半世紀以上昔のシーンを現代に蘇らせるには実物大のセットだけでは不十分で、レース映画はやはり本物のレースを舞台装置として設定できているかどうかが完成度の高さに大きく影響するといえそうだ。
とはいえモータースポーツ好きなら3時間以上に及ぶ全編を飽きることなく鑑賞できるだろう。コースやマシンなど一瞬の瞬きも許されないほどの集中力で観察していると奥深い発見があるかもしれない。
ということで、多くの皆様にご心配をお掛けしましたが、私自身も怪我から回復しまた多くのリポートを寄稿していきたいと思っておりますので、引き続きご支援ください!