買う側も売る側も全店全車種扱いにはメリットがある
トヨタは、東京を除き現状でトヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店と4系列に分かれている国内正規ディーラーネットワークをそのままに、今年5月より全店全車種扱いをスタートさせる。トヨタ店ではクラウン、トヨペット店ではハリアー、カローラ店ではカローラ、ネッツ店ではヴェルファイアなどの“専売車種”があるのだが、これらすべてのトヨタ系ディーラーですべてのトヨタ車(JPNタクシーやコースターなど一部例外車種があるとの話も聞く)を購入することが可能となるのだ。
すでにプリウスやC-HR、シエンタなど多くの売れ筋モデルについては、全店扱いとなっているが、これらが全車種にまで広がるのである。
日産系ディーラーも現状では、ほとんどの地域で日産店、プリンス店、サティオ店と3系列が存在するが、すでに全店で全車種が扱われている。ホンダでは過去にクリオ、ベルノ、プリモ店があったが、“ホンダカーズ”として屋号を統一し、全店全車種扱いとなっている。
他メーカー系ディーラーが全店全車種扱いとなっているなか、各系列に専売車種をおくトヨタディーラーだが、同じトヨタの看板を掲げるからと、たとえばトヨペット店で「カローラを見に来たのですが……」という来店客も目立つ。そのたびにカローラ店での専売であることを説明し、最寄りのカローラ店の店舗を紹介したりしているようだが、なかには「うちにはプレミオというクルマがありますよ」と、自分たちの取り扱い車種を勧めてくるケースもあるそうだ。また、「ここのトヨタのお店では何を扱っているのですか?」と言ってくる来店客もいるという。
販売チャンネル(系列)や専売車種の存在は、まだ日本の新車販売が右肩上がりで、未来永劫繁栄を続けるものと思われていた時代に構築されたもの。しかし現状は新車が最も売れたバブル時代の半分ともいわれる市場規模にまで落ち込んでおり、国内で圧倒的な販売シェアを誇るトヨタもいよいよ時代に即した販売ネットワークの構築へ“大なた”を振るうことになったといっていいだろう。
消費者サイドからすれば、同じトヨタの看板を掲げているのに、ある車種については決められた店の専売になっているというのは面倒くさいものであり、場合によっては他メーカー車へお客が流れてしまうことにもなりかねない。新車販売の不振傾向、そして新車販売台数の減少傾向に歯止めがきかない今では、少しの可能性であっても取りこぼしがあってはならない。買う側も売る側も全店全車種扱いは一定のメリットがあるのだ。
モデルチェンジのタイミングで全店扱いとなったシエンタは、その後飛躍的に販売台数を伸ばし、いまや人気モデルとして販売ランキングトップクラスの常連車種となっている。シエンタだけでなく、扱い店舗を増やすことで販売台数を伸ばすトヨタ車は多く、その意味では全店全車種扱いのメリットはすでに数値として現われているケースも存在している。
全店全車種扱いを先行させるトヨタだが、その先にあるのは店舗数削減と車種のラインアップ数削減である。すでに全店全車種扱いを進めている東京では、たとえば同じ店舗でノア、ヴォクシー、エスクァイアを販売している。車種削減がないなかで取り扱い台数は膨大に増える。ただし、選択肢は増えるのだが、売れ筋モデルの偏りが顕在化する傾向はあるようだ。