FFベースの4WDとは思えないFRのようなフットワーク
前後左右に駆動トルクを取り分けるのも、「A 45 S 4マチック+」同様だ。アンダーステアの兆候を確認した瞬間に、駆動トルクをフロントからリヤに多めに流したり、あるいは後輪の外輪を強める。そもそもフロント内輪のブレーキをチョンチョンと摘んだりしながら、ニュートラル特性をキープするのである。
それゆえに、限界域ではFFベースにありがちないフロントの鈍さを感じない。4WDならではの頑固な安定特性でもない。いわば、スピンしづらいFRモデルのように軽快なフットワークを披露するのだ。
ただし、生まれも育ちも同様の「A 45 S 4マチック+」とは、決定的に異なる感覚がある。そもそも外観からして、爪を隠した猛獣の如く攻撃的オーラを消し去ることに成功しているうえに、フィーリングにも過激な素振りはないのである。鞭を入れなければ嘶くこともない。ごく平凡なコンパクトセダンである。
むしろ、路面との当たりは優しい。コンパクトセダンでありながら、ひとクラス上の上級セダンであるかのように乗り心地は上質なのだ。その優しい乗り味に浸っているかぎり、ドライバーの視点からうっすらと見えるボンネットのなかにあの獰猛な421馬力ユニットが収まっているなどとは想像ができないし、ましてやそのエンジンが吠えまくり、270km/hの世界に引きずり込むとは思えない。
それでも、コーナリング限界を彷徨わせれば、半端なスポーツカーに恥をかかすに十分なパフーマンスを発揮するのだ。
ますますこのクルマがわからなくなった。上質なセダンでありながら、武闘派魂を秘めているのだ。その穏やかな身なりに騙されて、下手に挑まないほうがいい。それだけは言える。