エンジニアがもっとも苦労したのは4代目レガシィ後期型のEJ20!
EJ20がトップスポーツモデル用のエンジンとして長らく使い続けられた理由は、まず第一に高回転型であるということ。ショートストロークで8000回転まで無理なく回せるエンジンは単純にスポーツモデルに向いており、クルマ好きからの支持率が高い。最近の高効率ターボは低速トルクが厚いため高回転まで回す必要性が低く、世界のほとんどのスポーツモデルでエンジンの低回転化が進んでいる。
比較的低回転化された今どきの高効率ターボエンジンは、速さや性能面では何の不満もないものの、フィーリング面でどこか物足りなさを感じるという声が少なくないもの事実だ。そんななか、「世界で唯一8000回転まで回せる2リッターターボ」として生き残った EJ20には、古き良き時代のスポーツユニットの味わいがある。”愉しさ”を重視するメーカーとして、これを活かさない手はない。
また、1980年代後半に開発されたEJ20は「高出力化」を強く意識して設計されたので、出力面においては最初から将来的なアップデートを見越して余力が与えられたことも大きい。前世代エンジン(EA型)では3つだったクランクシャフトを支えるベアリングを5つに増やして耐久性を大幅に高め、ブローバイガスをうまく流すためのボリュームも設けるなど、最初の設計段階から余力を備えていた。
WRC本格参戦など、モータースポーツ競技で酷使されることも想定していたので、市販のWRXでも初代モデルの初期型はシリンダーブロックに高剛性なクローズドデッキを採用するなど、オーバークオリティと言える状態で生み出されている。
SUBARUでエンジン開発に携わったエンジニア・佐々木礼さんによると、FA/FB型でもモータースポーツ競技向けの仕様とすることは十分可能で、性能的な問題はないと断言。むしろ、筒内の冷却は直噴化された今のエンジンのほうが有利な面もあり、「新世代の戦闘マシン向け水平対向エンジン」には大いに期待して良いとのこと。
ただ、モータースポーツの現場では膨大な実績の積み重ねにより信頼性が高く、セッティングのノウハウも豊富なエンジンを使い続けるメリットは大きく、捨てがたい。勝利という結果が求められる競技においては、やはりそこが最重視される。また、パーツの互換性や整備ノウハウなど、同じ型式のエンジンを使い続けるほうがプライベーター競技者にとって好都合ということも、EJ20を使い続けてきた理由のひとつとのこと。これもメーカーとしての良心のひとつといえる。
ちなみに佐々木さんによると、基本設計が古いEJ20を延命させるのにもっとも苦労したのは、4代目レガシィの後期型(2006年発売)の開発時だったという。レガシィに求められる高出力や痛快なフィーリングを減退させることなく、排ガス規制に対応させるのには相当困難だったようだ。未燃焼ガスを燃焼させる2次エアのための通路を作ったり、触媒を早く温めるための工夫やターボの高効率化、新しいインジェクターの採用など、エンジン全体の総合力で問題を乗り越えたという。
EJ20の改良というと、ランエボとの性能競争時代やレガシィの280馬力化など、高出力化/高トルク化の歴史がとても印象深いが、そういったスペック面での変更がない場合でも、じつは非常に大規模な改良が何度も実施されてきた歴史がある。そんなエンジンだからこそ魅力的で熱心なファンが多く、メーカーも大事に育ててきた。2020年もレースやラリーなどの戦うフィールドで極限的な性能を発揮し、有終の美を飾ってほしいと切に願う。