排ガスが人体に悪影響を及ぼすため、規制が始まった
クルマの排ガスに含まれる有害物質による人への影響は、1960年代半ばあたりから日米ともに注目されるようになった。まず懸念されたのは一酸化炭素(CO)の排出だ。一酸化炭素中毒による命の危険は日常生活の中でもガス漏れや不完全燃焼などで起こる可能性がある。エンジンも、酸素(空気)が足りず不完全燃焼が続けばCO排出量が増え、人体への影響が懸念されるため、その規制がはじまった。
その後とくに自動車業界に衝撃を与えたのは、70年代の大幅な排ガス規制だ。発端は、米国上院議員のエドマンド・マスキーによる議案(マスキー法案)の提出にある。これは、COに加え、炭化水素(HC)と窒素酸化物(NOx)の排出量を10分の1以下にしなければならないという内容を含んでいた。当時日本車は米国への輸出をはじめており、スモッグの影響を大きく受けていたカリフォルニア州でこの規制が実施されると販売に大きな打撃を受けるため、国内の自動車メーカーはこぞって対策に乗り出した。規制対応の実現で先陣を切ったのが、ホンダのCVCC(複合渦流調整燃焼)である。 国内でも、1970年夏に、都内の女子高校生が光化学スモッグの影響で入院する事件が起きた。大気汚染の深刻さが現実のものと人々に認識されるようになった。そして昭和48年(73年)から排ガス規制が順次強化され、昭和53年(78年)規制では世界でもっとも厳しい排ガス浄化の規制となっていた。
規制内容はその後も細かく整備されていったが、次の大幅な規制強化は平成12年(00年)規制である。上記のCO、HC、NOx規制値をさらに70%削減する内容で、加えて低排出ガス車認定制度による減税措置(通称エコカー減税)が実施されたことにより、乗用車の排ガスは60年代当時の規制前に比べ有害物質の排出量を1/100以下にまで減らすことが自動車メーカー間で競われた。