富士の長い直線が短く感じられるほどの強烈な加速!
搭載するエンジンは、2リッターの直列4気筒ターボ。最高出力が421馬力。最大トルクは500N・mに達する。そう、1リッター当たり200馬力オーバーなのである。これはもうレーシングエンジンの世界である。それが、保証もついた市販モデルに搭載されるというのだから、AMGの技術には頭が下がる。
聞けば、AMG熟練のマイスターが手組みで生産しているという。なるほど合点がいった。そうでなければ、これほどこきめ細やかに吹き上がるエンジンなど成立するわけがない。
そのエンジンがいかに強力なのかは、富士スピードウエイの直線で、速度計の表示が263km/hを指し示したことで証明されよう。もう一度いおう。試乗車はGTクーペでもGT Rでもなく、シロガネーゼがプラチナどおりをドライブしていてもまったく不思議ではないAクラスなのである。それが、1.5kmという直線を短かく感じさせるほど鋭く加速し、260km/hオーバーという、ただならぬ速度で駆け抜けるのだから開いた口が塞がらない。
8速AMGスピードシフトDCTは、電光石火の変速を見舞う。8速に分割されているから、パワーバンドを外すことはあり得ない。常に臨戦体制でいてくれるのである。
とはいうものの、エンジン特性は定回転から高回転まで淀みなくトルクを発生するから、わざわざ8速ステップのDCTに頼らずともドライビングが悪化することはないだろうと想像した。それほどすべてが完成されているのだ。
しかもコーナリングが整っている。4WDゆえに500N・mを叩き付けても安定している。そればかりか、4WDの悪癖でもあるアンダーステアが抑えられているのだ。
前後への駆動トルクは、最大フロント100:リヤ0から50:50までの領域でオートコントロールされる。しかもリヤタイヤへ導かれるパワーは、左右に可変する。前後左右でトルクスプリットされるのだ。500N・mを自由自在に4輪のタイヤに振りわけるのである。
電子制御ダイナミックセレクトを「コンフォート」にセットすれば、比較的おだやかな特性に終始する。猛獣が牙を隠し、その性能をひた隠しにするのだ。街なかをクルーズするときには、ドライブモードで平穏な時間を過ごせば良いだろう。
だが一度ダイナミックセレクトを「レース」にすれば世界は一変する。特性は一気に攻撃的になる。弱カウンターステアに迫られるほど、テールスライドする場面があった。挙動の出し入れは自由自在なのである。ドリフトモード付きなのも納得だ。
いやはや、そのパフォーマンスには畏れ入る。これは確かに富士スピードウェイでないと、性能のすべてを味わうことはできなかっただろう。速度無制限のアウトバーンで鍛えられたマシンであることが伺えるのだ。
ヘルメットを持参したなったばかりか、レーシングスーツも着ずに挑んだことを後悔した。