【1口に4WDといっても2つの素姓がある!】FFベースとFRベースの違いをレーシングドライバーが解説 (2/2ページ)

FRベースは手間と技術が必要なため上級モデルにのみ設定

 一方でFRベースはどうか。FRの場合はエンジン/トランスミッションをフロントに縦置きし、後方へプロペラシャフトを伸ばしリヤアクスルのデファレンシャルを介して左右後輪に駆動力を伝達する。FFベース4WDで追加しなければならなかったプロペラシャフトから後ろのパワートレインが元来備わっているわけだ。逆にFRベースで前輪を駆動させるのは厄介だ。トランスミッションの後端にトランスファーアクスルを設け前輪方向へ短いながらもドライブシャフトを引かなくてはならない。加えてエンジンの真下にデファレンシャルを設置して左右にパワー分割する。

 そのため場合によってはエンジン搭載位置を少し高くし直さなければならず、また前輪は操舵する必要があるのでステアリングシステムにも変更が生じ、サスペンション構成も変わってくる。また縦置きエンジンは車体中央に置かれているのでフロントアクスルへのドライブシャフトは少しオフセットし設置しなければならず、少なからず前席フロアに出っ張りなどを生じる。

 パワーの流れはセンターのトランスファーが前後50対50で設定されているならほぼ前後同時に駆動力がかけられ、電磁クラッチを細工すれば後輪から先に駆動力をかけるなど駆動力分割制御の自由度は高い。

 こうしてみてくると、FFベースは比較的安価で簡単に4WD化でき生活4駆として大衆車向けのシステムになることがわかる。またFRベースでは手間と技術が必要でコストもかさむことから高額な上級モデルにしか採用されない。

 FFベースよりFRベースのほうが前後左右の重量配分に優れてハンドリング性能が高いと思われがちだが、それは妄想だ。FFベースでもたとえばランエボ・ファイナルや最新のメルセデスAMG 45 Sのように極めて高次元のハンドリングを実現しているモデルもあるのだ。

 車種別にみるとマツダは6や3、CX-3~CX-8もすべてFFベース。ホンダはフィットやCR-V、ヴェゼルなど。トヨタのRAV4ガソリン、日産エクストレイル、三菱アウトランダーやエクリプスクロスなどもほぼ同様だ。スバルはFFベースながらもともとエンジンが縦置きで4WD化しても左右の重量バランスが変わらず、前後はむしろ向上することから4WDを得意としているといわれる所以だ。

 FRベースの4WDはというと国産モデルではトヨタ・クラウンや日産・スカイラインなど。日産GT-Rはエンジン縦置きだがFRの設定はないし、ホンダNSXやトヨタのE-fourなど前後で別々のパワートレインをもつ新世代4WDも増えて来ている。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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