ビルシュタイン製ダンパーは単筒の高圧ガス封入式
ビルシュタイン製ショックアブソーバーの特徴は単筒(シングルチューブ)の高圧ガス封入式であることだ。ショックアブソーバーの構造は総じて似たようなものでシングルチューブやツインチューブ式などがあり、シリンダーのなかにダンパーオイルを封入し、ダンパー内のピストンが上下に移動する際に、小さな穴の開けられたオリフィスというバルブをオイルが通過する際の流動抵抗で特性を変化させている。
ビルシュタイン製のダンパーが優れていたのはシングルチューブ式でフリクションが少なく軽量であったこと。オイルをガス封入式として路面反力のコントロールを可能としたことだ。
またオリフィスの形状に工夫を凝らし、減衰力の立ち上がりを微低速から可能としたことなどが上げられる。ショックアブソーバー内のピストンはサスペンションが上下するのに呼応して同時に稼動する。通常のショックアブソーバーは0.3m/秒のピストンスピードでの減衰力の強弱で語られるが、ビルシュタイン製は動き始めの0.1m/秒以下という微低速から減衰力のコントロールを可能としていて、ダンピング特性に優れたフィールをドライバーに与えてくれるのだ。メルセデス・ベンツやポルシェの高性能な走りを国内のメーカーが興味をもって解析していく過程において、ビルシュタイン製ショックアブソーバーの好特性が明らかになったと言ってもいい。
一方で弱点もある。シングルチューブは摺動面の摩耗によりシリンダーに傷が付くとダンパーオイルのリークを起こし易い。そのため1万km程度ごとにオーバーホールが必要となる。欧州ではそうしたメンテナンスが慣例化しており、ユーザーも受け入れているが、国内ではショックアブソーバーは車両の生涯部品と考えられていて、ビルシュタイン製にも同様の耐久性を求めたため、欧州製のものとは異なる特性にならざるを得なかった。
そのため特性の違いに気がついたユーザーは、本場エナペタル製のものを指定してメンテナンスキットとともに購入し、本国と同様の乗り味を手に入れるのである。だがビルシュタイン製ショックアブソーバーの好特性にはさらなるノウハウがあり、じつはアイバッハ社製のコイルスプリングと組み合わせることが重要なのだった。アイバッハ社は1951年創業のドイツのスプリングメーカー。スプリング用鋼材を常温のままで巻き付け加工する冷間巻きが特徴で、すぐれた減衰特性を得ている。たとえば同じ5kgf/mmの固さレートを持つスプリングでも冷間巻きのアイバッハ社製と他メーカーのスプリングでは乗り味がまったくことなる。
ポルシェはこの事実を知っていてビルシュタイン製ショックアブソーバー+アイバッハ製スプリングを純正装着させていたのだ。この事実を知る国内メーカーはあまり多くない。実際ビルシュタインショックアブソーバーを装着していてもスプリングは国内サプライヤーの温間巻きである組み合わせがほとんど。
ボクが三菱のランサー・エボリューション用に提案していたのはエナペタル製ビルシュタインショックアブソーバーにアイバッハ製スプリングを組み合わせる理想系で、それはランエボXファイナルエディションで量産モデルとして採用された。
次にブレンボのブレーキシステムに付いて語ろう。ブレンボのブレーキといっても様々な大きさやタイプがある。近年はカーボンディスクブレーキローターに6ポッドのモノブロックキャリパーを組み合わせるというレーシングカー並みの超高性能なシステムも量販車用に供給している。ポルシェはもちろんフェラーリやランボルギーニ、日産GT-R2020モデルにも最新仕様が装着されていた。
ブレンボのブレーキシステムはただ単に制動力が強いとか耐フェード性に優れているというレベルの話ではない。重要なのはショックアブソーバーと同じで操るドライバーに好感触を与えることなのだ。ブレーキの好感触とはブレーキペダルの踏み方にリニアに制動力が立ち上がること。ペダルストロークは少なく安定していて踏力を加える加減で制動力をコントロールできることだ。
ブレンボがそれを実現できた裏にはじつはブレーキパッドメーカーとの協調が重要だった。それはビルシュタインがアイバッハと組み合わされることで最高性能を発揮できたのと同じで、ブレンボの性能を最大限に発揮するにはパジッド社のブレーキパッドと組み合わせることが重要なのだ。
実際ポルシェ911は空冷時代からブレンボのキャリパーにパジッドのブレーキパッドを組み合わせて採用している。僕はといえばF3000やグループAのM30BMWなどレースではこれらの組み合わせを導入して好成績を収めることに成功していた。
ビルシュタイン+アイバッハ、ブレンボ+パジッドといった優れたサプライヤーがじつは欧州車の走りを支えてきているのである。