エアインテークを設けるのは「性能的に必要だから」
そんなSUBARU車でも、近年は趣きが変わってきた。先代フォレスターや北米市場向けアセントなど、ターボエンジンを搭載するモデルでもボンネットからエアインテークをなくした仕様が出現。
今ではSUBARUファンの間でも、ボンネットのエアインテークについては賛否が分かれるようになり、しばしば熱く議論されるテーマとして取り上げられるが、その存在意味を疑問視する声は増えつつある。
しかし、当のSUBARU自身は、自社製品の未来像を示すコンセプトカー「VIZIV」シリーズでもボンネットにエアスクープを設けており、これからも高性能車にはボンネットにエアインテークを設置し続けるとの意志を示唆。東京モーターショー2019で披露したレヴォーグの次期型プロトタイプにもしっかり継承されていた。
「他とは違う道をゆく」のはSUBARUの信条のひとつでもあるので、他社がやらなくなったものを頑なにやり続ける、あるいはWRC参戦黄金時代に定着した輝かしいイメージを大事にしたいなど、情緒的な狙いが込められているのも確かだが、決してそれだけではない。
開発エンジニアに尋ねると「性能的に必要だから」というのが最大の理由だ。次期型レヴォーグの開発に携わるSUBARUの商品企画本部・主査の下中一彦氏によると「これまで培ったエッセンスとして残したい、あるいはこれまでのお客様のご期待に応えたいという思いもありますが、デザイン性と機能面で検討を重ねた結果、出力特性などの性能面、そしてフロントグリルからのデザインを活かす意味でも、やはりレヴォーグというクルマにはエアインテークが必要との判断に至った」のだという。
また、長年にわたりSUBARU車のチューニングを手がけてきたカリスマチューナー・桑原正典氏(現アライモータースポーツ)によると、インタークーラーをエンジンの上に置けることは、今でも水平対向エンジンの大きなメリットのひとつであるという。熱源であるエンジン本体の上に置くと、停車時や低速走行時には冷却性が悪化するものの、パイプの取り回しは短くできるので効率が良く、後ろには何もないため、一定以上の速度で走ってさえいれば熱を逃しやすい構造でもあるので、やはりメリットは多いというのだ。
特殊な競技マシンであるWRCのワークスマシンでは、インタークーラーを前置きとして好結果が得られたこともあったが、エアコンのコンデンサやラジエター、そしてエンジン本体の配置からすると、水平対向エンジンの場合はインタークーラー前置きのメリットは少ないといわれる。水平対向エンジンでインタークーラー前置きのメリットを活かすなら、マニホールドを逆に配置して、エアコンやオルタネーターなどの補器類を外すことが望ましくなるなど、乗用車では非現実的なレイアウトが求められてしまう。
そうした理由により、SUBARUはこれからもWRXやレヴォーグなど、高度な走行性能を発揮するクルマには、まだしばらくボンネットにエアインテークを設置し続ける見込みだ。