ル・マン出場ドライバーが実際に体験するシーンも!
さらにデラニーは911で市内を走り、とある教会の前を進む。フランスの田舎町を想わせる演出と思っていたが、その教会はサン・ジュリアン大聖堂だ。毎年教会前のジャコバン広場でル・マン24時間レース出場車とドライバーが集い車検とパレードを行う場所なのだった。これも1989年に現地で初めて現実と知った。映画のオープニングシーンの5分ほどだが、じつは現実の世界が展開されル・マン出場ドライバーが実際に体験するシーンが描かれていた訳だ。
ル・マン24時間レースの闘い方はさまざまだが、ポルシェのようなワークスチームはパドック裏にキャンピングカーを置き、各ドライバーには1台ずつ与えられる。食事はケータリング用の巨大なテント内で24時間いつでも自由に無料で取れる。そうしたシステムも正確に描かれていた。これも事実と同じで1989年にもエントラント用にキャンピングカーが与えられ、ケータリングも同様だった。
映画の中で描かれたことをひとつひとつ実際に経験しながら僕のル・マンウィークは進み、同時にこの映画には再現性の高い現実が描かれていたのだと知ったのだ。
映画に出場するマシン群は今ではマニア垂涎の的となっている名車ばかり。デラニーが乗るのはGulf(ガルフ)カラーの鮮やかなワークス・ポルシェ917K。1970年のル・マンに実在した車両がベースになっている。対するフェラーリはワークスチームの512Sを実車投入。激しいデッドヒートやクラッシュシーンでは917Kや512Sが大破するシーンも含まれ、現代なら天文学的な費用がかかっただろう。これを現代のようなCGではなく実車で撮影しているところが凄いのだ。
ドライバー交代し、恋人や家族、スポンサー、チーム監督などと過ごすシーンややり取りも現実的だったことが今の僕ならわかる。この映画を観て以来レーサーは「ポルシェ911に乗ってサーキット入りする」のが粋であり、それを実現すべく自身もポルシェ911を買いそれでレース場へ向かったもの。まあポルシェ・ワークス契約なら自分で買う必要はなかっただろうけど、それは敵わなかった。
※後編へ続く