MT比率低下の要因はAT限定免許の登場だけじゃない
日本で売られる乗用車の場合、ATとMTの販売比率は、1980年代の中盤頃まで各50%前後だった。その後、1990年頃にはAT比率が70%程度に高まり、普通自動車の運転免許にAT限定の制度が設けられている。この影響もあり、2000年頃にはATの販売比率が90%に達して、現在では98%前後まで高まった。ほぼすべてのクルマがATという状態で、MTを選べない車種も多い。
ところが最近になって、トヨタが6速MTの設定を増やしている。カローラシリーズとヤリス(ヴィッツの後継車種)に加えて、SUVのC-HRなどでも選択できる。トヨタのSUVでも、ハリアーやRAV4はATのみだから、C-HRで6速MTを選べるのは興味深い。MTを設定した理由を開発者に尋ねると、以下のような返答だった。
「C-HRは海外でも販売され、基本的な性能は、全世界共通にすべく開発された。そのために6速MTも採用した」という。販売店にも、MTを設定したことによる顧客の反応を尋ねた。
「販売の主力は、あくまでもATだが、MTを希望するお客さまも相応におられる。意外に堅実に売れている」とのことだ。
先に述べたとおり、1980年代の中盤にはMT車の販売比率が約50%に達していた。少なくとも当時は、相応数のユーザーがMT車を好んでいた。この後の15年間に、MT比率は10%程度まで減るのだが、急減した背景には、MT車のラインアップが少なくなった事情もある。
1990年代に入ると日本の自動車市場は大きく変わり、1996年頃から、ミニバンや背の高いコンパクトカーが続々と発売されて売れ行きを伸ばした。その一方でセダンとクーペは海外向けの車種を国内にも流用するようになり、販売を低迷させていく。急増するミニバンや背の高いコンパクトカーの多くは、AT専用車だったから、AT比率も急増した。
つまりMT車の販売比率が下がった理由として、魅力的なMT車の選択肢が減ったことも挙げられる。MT車を欲しいユーザーがいても、選ぶ価値の高い車種がなくなってしまった。クルマがツール化したり、AT限定免許も用意されてMT車の需要が減ったのは確かだが、それ以上にラインアップが欠乏したわけだ。