生産コストを上げないためにメインマーケットで生産する
たとえば、日産であればノートなどを生産している追浜工場でマーチを生産することは可能なように思える。たしかに組立ラインに関していえば混流に対応しているので、対応できないことはないだろう。ただし、生産のスタートとなるパネルの製造を考えると、急にハードルが上がる。
なぜなら、ボディの元となるパネルは巨大なプレス機によって鋼板を加工する工程であり、そのためには金型の管理が必要になるからだ。少量しか売れないクルマのために金型を保守管理するのは、生産コストを押し上げてしまう。もちろんプレス工程だけが課題というわけではないが、販売の見込み次第では、そのモデルのメインマーケットの近くで生産して、ほかのエリアにはそこから輸出するという手法をとることがトータルでは効率がよいといえる。
ホンダ・シビックの生産拠点であるイギリス工場は、すでに閉鎖されることが発表されている。だが当初はタイプRを含むハッチバックボディは、イギリスから全世界に輸出するということだった。そのため、日本で売られているシビックもハッチバックは輸入車だが、セダンは埼玉の寄居工場で作られている国産だったりしたのだ。さらに、ホンダでいえばNSXもアメリカに新規で作られた専用工場で生産され、そこから世界中にデリバリーされている。NSXの販売台数を考えると、あちこちに生産拠点を作るのは現実的ではない。
ほかにもサプライチェーンであったり、工場の稼働率であったりといった要素も見逃せない。生産拠点を分けるよりも、1カ所に集中させて稼働率を上げたほうがコストダウンにつながる部分もあるからだ。そうしたさまざまなファクターを考慮した上で、最適と思われる生産体制をとった結果が「輸入される日本車」を生み出している。
少子高齢化が進む日本は人口減少社会でもある。2045~2055年頃には総人口が1億人を切るのは、もはや避けられない。つまり国内市場は縮小するばかりといえる。生産の効率化を考えると、今後も海外で生産される「日本車」は増えることだろう。