日本の交通状況にはCVTの特性が合っている
日本車のオートマチックトランスミッションにおいて、主流といえるのがCVTだ。最近になってステップAT(主に遊星歯車を使う固定された変速段を持つAT)に回帰する動きも見えているが、いわゆる5ナンバーサイズのコンパクトカーやミニバン、また軽乗用車のほとんどがCVTを採用している。それは日本の交通状況において、乗り味や燃費といった点においてCVTの特性がマッチしているからだ。
CVTの変速部分は、2つのプーリーで金属製のベルトやチェーンを挟み込んだ構造となっている。プーリーの大きさを変えることで変速比を無段階に変えることができるのが特徴だ。そのため変速ショックはなく、究極にシームレスな加速感が味わえるのがメリットとされている。また、極端にいえばエンジン回転数を一定のまま速度に合わせてCVTを変速させることも可能。エンジンの効率が良い領域を使いやすく、省燃費にもつながるトランスミッションとなっている。
しかし、なめらかさがメリットのCVTに疑似的にステップ変速機能を持たせ、パドルシフトやシフトレバーによりマニュアル操作ができるようにしているモデルは少なくない。むしろマニュアルモードを持たないCVT車のほうが少数派といえるくらいだ。その元祖といえるのは、スバルの軽自動車「ヴィヴィオ」だろう。世界的にも量産CVTについてリードしていたスバル(当時は富士重工業)は、1997年に6速マニュアルモードを持つ「スポーツシフト」を搭載したグレードを追加設定した。このモデルではシフトレバーをシーケンシャル(前後)操作するマニュアル操作が可能だった。
パドルシフトなどによるマニュアルモードを活用するシーンというのは、どんなときだろうか。おそらく、多くのユーザーはエンジンブレーキを思い通りにコントロールするために使っているのだと想像できる。CVTは燃費に有利なトランスミッションといえるが、そのためアクセルオフでは変速比をロング側(ハイギアード)にして空走させるような制御になっていることが多い。そしてブレーキを踏むと、速度に合わせて変速比を変えていくといった具合だ。街乗りではそれで悪くないのだが、ワインディングなどエンジンブレーキを多用したほうが乗りやすいシーンにおいては、アクセルオフで減速しないのは乗りづらい面もある。
そこでマニュアルモードを利用してシフトダウンするかのように変速比をローギアード側にする機能が生まれたといえる。これによってエンジンブレーキの強弱をドライバーがコントロールしやすくなっている。なお、マニュアルモードではシフトアップも可能だが、おそらくシフトダウンに比べると使用頻度は低いことだろう。