日本のメーカーは雪道走行を甘く見すぎ? 海外で開催されるクルマの「ウインタードライブレッスン」の驚くべき中身とは (2/2ページ)

海外では雪道走行を習得する重要性が認知されている

 たとえばメルセデス・AMG社。毎年1〜3月に北欧スウェーデンのラップランド地方の氷結した湖上を貸し切り、そこでAMG車オーナー向けにドライビングアカデミーを開催している。その内容を知ると腰を抜かすほどだ。

 日本からはフィンランドのヘルシンキやドイツ・フランクフルトを経由してスウェーデン北部のアルイエプログに降り立つ。お菓子で有名なヨックモック市からほど近く、1000湖以上あると言われる自然の湖がすべて全面氷結している。湖といっても大小さまざまだが、アカデミーで利用されるのは日本で言えば長野県の諏訪湖ほどもあろうかと思われる広大な湖だ。その湖上に人工的にコースを設営し、さまざまなドライビングスタイルを習得することを目的としている。

 それはそうだろう、AMG車といえばもっとも低い馬力のモデルでも350馬力以上。E63 SのAMGなどは612馬力ものパワーを発揮する。欧州の、取りわけドイツ北部の冬季などは日本の北海道並みに寒く、路面は凍結し、しかしアウトバーンは日常生活道路として利用される。そうした車両のオーナーを安全に導くために低ミュー路でのドライビングエクスペリエンスとトレーニングは必須と考えているのだ。

 ただ「訓練」するだけでは参加者の興味は引けないのでAMGはさまざまな工夫を凝らしている。作ったコースには「ニュルブルクリンク」とか「ホッケンハイム」といったネーミングをし、氷上を時速200kmでコーナリングさせるメニューも取り込まれている。タイムアタックと競争の減速から車両の無駄な動きや操作を感知させ、自ずと身に付くようなプログラムとなっているのだ。

 参加費用は現地集合で2〜3泊コースで50万円ほど。車両はAMG社がすべて用意し、A45からGTモデル、63シリーズの後輪駆動や4マチックモデルなど多彩なドライブトレインでトレーニングができ、特性を知ることができる。

 氷上ゆえ使用されるタイヤは専用のスタッドタイヤ。そのスタッド本数は400本も打ち込まれているという。それでもパワーをかければ簡単に滑る。ブレーキを踏んでも止まらない。一様に見える真っ白な氷結路面も所々で轍があったり水が浮いたりしていてミューは一定ではない。

 朝から晩まで、嫌というほど走らされ経験を積ませてくれる。なかには18歳になり免許を取得し晴れてAMGのオーナーになったというオーストラリアの青年が、誕生日の記念に父からウインターアカデミーの参加をプレゼントされたという例も。AMG車を安全に乗りこなして欲しいと案ずる父親の気持ちのこもった素敵なプレゼントだと感心した。

 北欧では、ドイツのアウディやポルシェ、さらにはコンチネンタルなどのサプライヤーなども同様のイベントを開催している。またランボルギーニはイタリア北部でアヴェンタドールやウラカンを使用してのウインターアカデミーを開催するなどしている。いずれも予約がなかなか取れない状況で、欧州ではすっかり重要性が認知されているようだ。

 お隣中国でもチベットの奥地で近年開催を始めている。日本国内ではこうした規模のアカデミーは開催しづらいので、海外のイベントに積極的に参加してみるのもいい経験になるはずだ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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