制限のなかで勝負することはF1も軽自動車も同じ!
もっとも、環境指向が強まるなかで「レースで勝つ技術」というイメージが、全面的にポジティブかといえば、そうとはいえない状況にもなっています。もちろん、F1にしてもWECにしても、電動化を進めるなどしてハイブリッドが主流となりつつある市販車との技術的な関係性をアピールしやすくなっていますが「速いことがエライ」という時代ではないのも事実でしょう。そもそも、冒頭で記した「CASE」とはコネクテッド・オートノマス(自動運転)・シェアリング・エレクトリック(電動化)の頭文字を並べたものですが、E以外の要素はモータースポーツとの関連性をアピールしようにも難しく、レースで勝つことがダイレクトにブランド価値を高めるのに効いていたかつてとは、時代は異なっています。
そうしたなかで、自動車メーカーがモータースポーツに参加する意義や目的とは何があるのでしょうか。そこには人材育成という狙いもあるといいます。たとえばホンダのF1パワーユニット開発責任者としてプロジェクトを率いているのは浅木泰昭さんですが、浅木さんは1980年代、最強といわれたF1エンジン開発を担当したことで知られていますが、またホンダの大ヒット作N-BOX(初代)の開発責任者を務めた人物でもあります。その共通性についてうかがうと「レギュレーションのなかで勝負することはF1も軽自動車も同じですよ」という回答が印象的ですが、エンジニアが勝負に勝つためには成功体験が重要というのが浅木さんの主張でした。成功体験というのはエンジニアの自信につながり、次世代テクノロジーを生み出す種となるわけです。
スピーディに、チャレンジングに進める必要のあるモータースポーツ活動は結果も明確に見えてきます。つまり、エンジニアリングの種となる成功体験を積み重ねやすいのです。もちろん常に成功するとは限りませんが、失敗も糧になるはずです。だからこそ、自動車メーカー自身がモータースポーツ活動を行なうことには意義があるといえるのです。