各メーカーの「個性」が減少したことも要因
パワーについては、AE86のころのように130馬力ぐらいだと、「もっとパワーを!」と叫んでいたが、280馬力時代となって大興奮。あのスーパーカーエイジが夢中になったポルシェ930ターボだって260馬力だったのだから、300馬力前後のクルマが最速だった時代のほうが、一番バランスがよかったのかもしれない。ドライビング的には、限られたパワーをどう有効に使うかというのも面白いし、ドッカンターボのようなじゃじゃ馬をどう乗りこなすかも腕の見せ所だった。だがドライバビリティのよすぎるハイパワー+賢い電子制御というのは、どうしても面白みに欠けてしまう。
ないものねだりといえばそれまでだが、絶対的な速さはなくても、ワクワク、ドキドキできるクルマこそが魅力的。要するに、いまのクルマは高効率で少し賢すぎるのかもしれない。もっと積極的にアクセルを踏んでいけて、積極的にハンドルを切って曲がっていける、そんな“正しく間違った”、遊び心ある走りのクルマの登場を、待っている人は多いはずだ。
さらに付け加えるなら、80年代、90年代はメーカー同士の資本提携や技術提携がなく、メーカー同士がライバルとして競い合っていて、それぞれ個性が強かった。それだけにユーザーもその個性に惹かれ、日産ファン、ホンダファン、マツダファンと、それぞれ各メーカーに強い思い入れがあったもの。しかし、今ではそういうものも薄れてきて、いいクルマならメーカーにはこだわらないという人が増えてきている。
もっとも、メーカー間の提携があるからこそ、こうした時代でもトヨタ86/スバルBRZや、BMW Z4/トヨタGRスープラのようなクルマも登場してきたわけで、プラスの面もある。だが、のめり込める感じ、熱烈に応援したくなる気持ちは希薄になってきたのでは。
また蛇足かもしれないが、むかしはクルマに乗ることで、女の子に「モテる」という幻想(?)もあったし、メーカーもけっこう「モテる」ということを意識してクルマを開発していたはず。古い話でいえば、ハコスカのキャッチフレーズは、ずばり「愛のスカイライン」だったし、初代セリカは「恋はセリカで」というコピーを謳った。
ずばり「クルマはSEXの商品です」と言い切ったプリンス自販のPRに載った宣伝担当者の発言もあったし、ケンメリスカイラインの「愛のアンブレラ」とロゴの入った「ケンメリTシャツ」は、57万枚も売れたという記録がある。その後、ソアラやプレリュード、シルビアなどが、デートカーといわれたりもしたが、クルマからフェロモンが失われたのも、クルマの魅力が薄れてきた遠因かもしれない……。