繰り返された激しい議論はチームの情熱の証です
開発チームのひとりである七里文子さんは、開発中のことを、こんなふうに振り返ってくれた。
「取りまわしのよさは、新しい技術の開発といった飛び道具的な大技ではなく、地道な改善や工夫をひたすら積み重ねていって実現したものです。最小回転半径で言えば、テストコースの広い敷地で、新型と旧型のカローラに乗って、延々と円を描いて走らせていたことが思い出されます。最小回転半径の10cmの違い、20cmの違いが、本当にどんな違いになるのか、それを自分たちの肌で徹底的に実感しようと考えたんです」
見かけ上の数値ではなく、ユーザーが求める本当の価値とはなにか。それを徹底的に模索したエピソードと言えるだろう。
ちなみに国内モデルのサイズは、グローバルモデルと比べ全長で135mm、全幅で35mm小さい(セダンの場合)。サイズの違いは、取りまわし以外にもさまざまな影響を及ぼす。デザインもそのひとつだ。サイズが小さくなれば、当然ボディの「意匠自由度」も減るため、抑揚のあるエクステリアデザインを作り上げるうえでは不利になる。だが、実車を見た印象はグローバルモデルと変わらない。むしろ陰影の豊かさなど、サイズの大きなグローバルモデルよりも国内モデルのほうが上なのではと感じさせるほどの仕上がりとなっている。
「サイズを小さくしながら、グローバルモデルと同じデザインコンセプトを実現すること。われわれのその提案に、当初は不可能だという声もありましたし、実際にデザインチームとも侃々諤々の議論が幾度となく行われました。今から思うと本当に熱い議論だったんですが、それはチーム全員の本気度の高さゆえだったんですね。その熱意が不可能を可能にしたのだと思います」(梅村さん)
海外の開発拠点に在籍しながら全体の開発に初期から関わった寛永敏生さんにもうかがった。
「わたしは2018年までトヨタモーターヨーロッパに在籍していたんですが、そこで今回の新型カローラツーリングのベースモデルになっている欧州モデルの開発責任者として、上田と連携を取りながら開発を進めてきました。新型カローラが属するCセグメントは、欧州では強豪ぞろいの激戦区です。さらに、Dセグメントのステーションワゴン『アベンシス』の生産終了が決まっていたため、新型カローラではそのクラスを求めるお客さまにもお応えできる価値が必要でした。操縦安定性、乗り心地、動力性能、パッケージと、すべての面において高い性能が必要だったんです」
「先代のカローラでは、国内とグローバルとではまったく別のクルマでしたが、今回は、共通のTNGAプラットフォームを使い、国内専用のサイズに収めながら、欧州モデルと同様の性能を両立させることができました。ぜひひとりでも多くの日本のお客さまに、新型カローラのよさを体感していただきたいですね」