FRこそエルグランドのイメージが邪魔をした可能性
なぜ、ここまでアル/ヴェルに大差をつけられてしまったのだろうか。
ひとつ考えられるのは、エルグランドは先代モデルまでFRだったことが挙げられよう。現行型で3代目となるエルグランドだが、初代・2代目はFRプラットフォームを用いていた。じつはLLサイズのミニバンの元祖といえるのが初代エルグランドで、トヨタがアルファードを出したのは後追いだったりする。
2002年、エルグランドが2代目へとフルモデルチェンジしたのと同時期に、初代アルファードが生まれている。つまりエルグランドはひと世代リードしていたのだ。
しかも、初代アルファードと2代目エルグランドのライバル関係は現在よりも販売面では拮抗していた。それぞれ、販売チャネルの規模に沿うカタチで台数が出ていたのだ。さらにいえば、初代アルファードと2代目エルグランドはキャラクターも異なっていた。アルファードはFFプラットフォームを使うことで広い室内や乗り心地の良さをアピールした。
それに対して、エルグランドは先代モデルをブラッシュアップしたFRプラットフォームが個性となっていた。スペース効率でいえば不利ではあるが、走りの素性において有利というイメージで差別化していた部分があった。しかもエルグランドのエンジンは全車がV6だったのだ。日産が意図したものではないかもしれないが、「エルグランドはリヤ駆動だからスポーティ」というイメージを有していた。
しかし、ミニバンの本質はユーティリティである。2代目エルグランドもデビューから数年は年間4万台前後の販売台数を誇っていたが、後半になると年間4桁の販売に沈むようになる。このあたりで、FFプラットフォームを採用したアルファードに明確な差をつけられた。
そのため3代目エルグランドでは乗り心地やスペース効率に有利なFFに変身するわけだが、そのこと自体はミニバンとしてまっとうな進化であっても、エルグランドというブランドにおいてはネガに感じる向きもあったようだ。
V6+FRというパッケージがエルグランドの個性と市場が認識していたことは、3代目へのフルモデルチェンジにあたり足かせになったことは間違いない。そのため、フルモデルチェンジ直後は好調に受注を集めたが、新車効果が薄れると販売台数は下落、2015年以降は年間販売台数で1万台を下まわってしまう。
現時点における、それぞれの年間販売規模を大雑把にいうと、アル/ヴェルの10万台に対して、エルグランドは7000台。ここまで大差がついてしまうと、既存顧客の差も大きく、もはや手の打ちようはないといえる。あるとすれば、性能や価格面でライバルを凌駕するフルモデルチェンジだが、ある意味ではドメスティックモデルであるLLサイズ・ミニバンにそれだけの開発費をかけるメリットがあるかといえば、その判断は難しい。
エルグランドのファンとしては寂しい話だが、最新ニーズに応えるようマイナーチェンジをしながら、販売を続けるというのがビジネスとしては正解といえるのだろう。