生産部門と徹底的にこだわったボディライン
──マツダ3と同じ3種類のパワートレインが設定されていますが、セッティングは変えていますか?
佐賀:変えています。基本的には同じような走り・燃費を目指していますが、どうしても車重が35〜50kg重いので、最終減速比を低くして、キャリブレーションを取っています。通常SUV化すると一般的には80〜100kg重くなるのですが、35〜50kgに抑えています。そこがマツダ3と同体質になっているポイントだと思います。
──ボディやさまざまな装備の材質をより広範囲で軽量なものにしているのでしょうか?
佐賀:軽量化に関してはマツダ3と一緒です。CX-30専用という点は正直ないのですが、マツダ3からできるだけ補強せずに済むようしっかり作ろうと。そこが今回の一括企画のポイントで、最初からマツダ3とCX-30を作ることを決めていたので、部品を決めるときに両車の質量を担保できるようにしています。逆に言えば、その範囲に抑え込むことが至上命題だったのですが(笑)。そうして上手く共通化することが軽量化につながる、そういう発想です。
──今回シャークフィンアンテナを廃止しリヤガラスアンテナとすることで、ルーフで高さを決めることができたということですが、その技術的ブレイクスルーとなったポイントは?
佐賀:じつは新世代商品群から、電装系のプラットフォームを一新しています。今までのハッチバック車やSUVではボディが分かれているうえリヤガラスの面積が狭く、充分な受信性能を確保できなかったのですが、要素を極力少なくする「引き算の美学」に基づいたデザインを実現するため「狭面積リヤガラスアンテナ」を新たに開発しました。
具体的には、開発初期段階からそれを前提として、各部門が連携して適切な車両構造や部品のレイアウトを決めています。あとはCAE解析を活用して狭いガラスのなかに複数のアンテナを配置できる技術を確立したり、Dピラーにラジオチューナーを全車標準で搭載してアンテナからチューナーの間のフィーダー線を可能な限り短くしたりと、これもブレイクスルーというよりは細かな作り込みの積み重ねですね。
──新世代商品群から、デザインの面構成がより一層微妙な表現になっていますが、この造形を実現するうえで苦労したポイントは?
佐賀:技術的には、非常に彫りの深い造形になっていますので、ドアの内蔵物とのトレードオフに加え、ドアヒンジの配置にも苦労しました。
さらに、この造形を実現するには、生産部門の協力が非常に重要です。パネル上に折れ線があればいいのですが、実際このデータはクレイモデラーがチーフデザイナーと一緒にコンマ数ミリずつ決めてきたデザインで、それをデータに起こしているんですよ。今度はそれを、金型に落とし込んでいかなければならないので、金型職人が手作業で作るんです。
途中にデータがあっても入口と出口は人の手作業なので、今は必ずデザインと金型製作の部門とで受け渡しの儀式を行います。それで、データを渡すのではなく、クレイモデラーが粘土モデルを前に、どういう所が重要なのかを、砥石で金型を削る人たちに伝授するんですね。そういった人間味のあることをしながらデザイナーの意図を汲んで、その上で金型に起こしています。
──CADデータを渡して「この通りにやってね、以上」ではないんですね(笑)。
佐賀:それでは無理ですね。とくにウチのデザインのデータは非常に微妙なので、そういった積み重ねをしています。
──とくに側面は、深い部分と緩い部分との移ろいに微妙な表現がありますよね。
佐賀:はい、ですから「移ろい」を表現したビデオを生産部門にも見てもらって、「こういう風に移ろうのが大事なんだ」と、彼らをまず感動させて味方に引き込む、デザインと生産の両部門が共創するんですね。
だからバンパーも同じですね。バンパーは樹脂で作りますが、金属のように忠実に金型を作ってしまうと、じつはできあがったときに膨張するので、形が変わってしまうんですよ。ですから金属部品と同じように、デザインを再現する樹脂部品を作る取り組みを、プラスチックの技術担当としています。樹脂部品の膨張率を考えながら、型を作っているんですね。
──金属はスプリングバックで縮みますが、樹脂は膨張してしまうんですね。
佐賀:その通りです。
柳澤 亮チーフデザイナー:われわれデザイン部門はまったく言っていないんですが、技術部門は「面のアーティスト活動」と命名して活動していますね。エンジニアが「面のアーティストにならなければならないんだ」と言う、そんな会社はほかにないと思いますね(笑)。