今ではF1のマシン開発にも用いられるほど進化した
こうしたSIMゲームではクルマの性能や特性を知るだけでなく、ドライビングテクニックの上達にも役立つと考えられている。現実と違うのは前後左右上下のGがないことと、クラッシュのリスクから解放されることだ。本物のレースマシンF3000でレースしていた頃は、その強烈なG変化による身体的負荷が強すぎて「Gさえかからなければどんなに速く走れるのに」とか、クラッシュのリスクからどうしてもアグレッシブになれない場面も多くあってストレスが溜まっていた。
だがSIMゲームならそれらのストレスから解放されるのだ。アンダーステアやオーバーステア、パワードリフトやブレーキングドリフト、カウンターステアもSIMで再現できる。4輪駆動で筑波サーキットの最終コーナーをゼロカウンターで回ることも可能だ(これは現実より難しい)。
近代F1の世界では、SIMを使ったマシン開発やコースに合わせたセッティングが行われていて、各チームが専用のSIMを開発し、専属テスターとして現役のレーシングドライバーや元F1パイロットが作業にあたっているほどなのだ。彼らの報酬はプロレーサーとしての活動に見合うものだという。
そして現代のSIMソフトなら酔うこともなくなった。とくにグランツーリスモ スポーツは映像が美しく実際の景色を完璧なまでに再現しているのが特徴だ。たとえば僕らレーシングドライバーはサーキットを300km/hで走っているとき、視界の景色はほとんどが矢のように流れているが、視界中央部で向かう先の路面には石ころが落ちているのかネジが落ちているのかを判別できるほどの動態視力を持っている。GTスポーツは画面のどこを見てもピントがあっているが、路面の小石までは再現されていない。それでも必要にして十分な情報は得られ、不要な情報はキャンセルされているのでドライビング向上に役立つ。
ドライビングSIMをするには専用のPCやゲーム機にハンドルコントローラー、ソフトにシートなど数十万円の出費が必要だが、それで世界中のサーキットを好きなマシンで好きなだけいつでも走れると思えば安いものだ。プロも初めてのサーキットへ遠征するときなどは、SIMでトレーニングしてから行くのが常識化しているのだ。この特徴を利用して「中谷塾」のプログラムをグランツーリスモ スポーツ上で実現できないかと真剣に考えているところだ。