コンセプトの変更でファンが騒然となったクルマもある
先日、アメリカで発表された8代目のシボレー・コルベットは噂通りMR(ミッドシップ)となりました。これまでV8エンジンをフロントに積んだ、ロングノーズのシルエットがコルベットの象徴ともいえましたが、より運動性能に有利なMRへと大変身を遂げたわけです。
といっても、エンジンはアメリカンマッスルカーに伝統的なV8 OHVのNAエンジンだったりするところはコルベットのヘリテージを感じさせるところです。MRになっても、そのスピリットは変わりないということなのでしょう。また、コルベットといえばル・マンなどの耐久レースでの活躍も知られているところですが、MRになったことでモータースポーツでの戦闘力も上がるでしょうし、その結果如何ではMRへの大変身は大いに評価されることにもなりそうです。ともかく、ドラスティックな変身が市場でどのように評価されるのかは気になります。
コルベットのように伝統のあるクルマだからこそ、こうした大変身はより注目を集め、賛否両論あるわけですが、過去に同じように議論となったクルマはいくつもありました。
1)日産スカイライン
いの一番に思い出すのは、日産スカイラインです。2001年のフルモデルチェンジで、それまでの直列6気筒エンジンからV6へとシフトしたV35型スカイラインは、そもそもがグローバルモデル(インフィニティG35)として企画されたモデルでした。4ドアのスポーティなセダンという意味ではスカイラインという名前を受け継ぐのにふさわしいクルマでしたが、それまでのスカイラインはドメスティックなニーズに合わせてきただけに、熱心なスカイラインファンの反感を買ってしまったのも事実です。ですから、このモデルチェンジだけをみれば失敗例なのでしょう。
しかし、その後もV系となったスカイラインは確実に国内市場で存在感を維持しています。いったんはインフィニティ・ブランド色を強めたりもしましたが、2019年のマイナーチェンジでは“日産”スカイラインとしてリニューアルを受けました。伝統の名前が生き残っているという意味では、V35のフルモデルチェンジ時にスカイラインという名前を使ったことは成功だったといえるのかもしれません。
2)ホンダ・シビック・タイプR
伝統を守ることよりも、サーキットでのタイムが優先順位の上にあるのが、ホンダが「FF最速」を旗印に開発しているシビック・タイプRです。1.6リッターエンジンを搭載した初代EK9から、現時点で最後の国産シビック・タイプRであるFD2まで、シビック・タイプRには高回転型の自然吸気(NA)VTECエンジンが搭載されていました。エンジン型式でいうとEK9が「B16B」、それ以降のEP3、FN2(いずれもイギリス製)、そしてFD2は「K20A」型エンジンだったのです。
EK9とEP3、タイプRユーロと名付けられたFN2は3ドアハッチバックボディ、FD2は4ドアセダンとボディ形状こそ違いましたが、NAエンジンをマニュアルトランスミッションで操ることがホンダらしさと感じるファンは多かったように思います。レスポンスに優れたNAエンジンを高回転まできっちり使うことでターボエンジンのライバルを打ち負かすこともホンダファンの楽しみだったかもしれません。
しかし、2015年に750台限定で発売されたFK2、そして2017年にカタログモデルとして復活したFK8という新世代のシビック・タイプRは、その心臓部を2リッターガソリン直噴VTECターボの「K20C」としていたのです。NAエンジンのK20Aでは最終仕様でも225馬力でしたが、ターボによって過給するK20Cは300馬力オーバーを実現。FK8の最高出力は320馬力に達しています。それもこれも「FF最速」というシビック・タイプRにとって外すことのできないテーマを実現するための選択でした。
エンジンがNAからターボに変わったことでユーザー層にも変化が見られるという声もありますが、平凡な速さのクルマにタイプRという名前を付けることを多くのファンが許容するとは思えず、この進化は受け入れざるを得ないといったところでしょうか。