エボVがこれまで誰も見た事のない姿勢で駆け抜けた
今回は「ゼロカウンター」について解説しよう。「ゼロカウンター」とは良く言い表されたワードだと思う。きっかけはベスモ(ベストモータリング)だ。三菱のエボV(ランサーエボリューションV)が登場したとき、筑波サーキットで走行テストを行ったのだが、最終コーナーを駆け抜ける姿勢があまりにも見事だった。筑波サーキットの最終コーナーは約400メートルあるバックストレートから繋がる100Rほどの高速コーナーで、筑波サーキットを攻略するうえでもっとも重要かつ難しいコーナーだ。そこをエボⅤは速度は落とさないまま進入し、4輪ドリフト状態で駆け抜けた。
通常FR車(フロントエンジン、後輪駆動)など、後輪駆動車のドリフト走行では前輪でカウンターステアを当て、後輪はパワースライドコントロールしながら姿勢を保つ。だがエボVは4WD(4輪駆動)だ。ドリフトどころかカウンターステアを当てることすら人々の脳裏には浮かばない走法だったろう。4WDでハイスピードコーナリングしたらアンダーステアにしかならないと多くの関係者は思い込んでいたはずだ。
ところが筑波サーキットに現れた新型エボVは4輪ドリフトの姿勢で、後輪からはタイヤスモークを巻き上げ、だが前輪はカウンターステアを当てていない。これまで誰も見た事がない姿勢で駆け抜けてきたのだ。スタッフの誰かが「凄い! 4輪ドリフトしているのにカウンターステアを当てていない! ゼロカウンター走法だ!」と声をあげ、その瞬間に「ゼロカウンター」というワードが誕生したのだ。
この瞬間から「なぜゼロカウンター走行が可能になったのか?」「いったいどのようなセッティングや操作が必要なのか?」と関係者の間で喧々諤々の議論が展開されることになる。三菱はきっと特殊なセッティングをエボVに仕込ませたに違いないとか、中谷(筆者)は筑波サーキットをエボV開発のため何千ラップと走り込んだに違いないなどなど。
しかし、実際はどの意見も核心を得ていなかった。確かにベスモ取材の前夜に三菱のエボV開発陣とともに筑波サーキットへ入り、テスト車の新型エボVを走行させてみた。じつはエボⅤを筑波サーキットで走らせるのはこれが初めてだったのだ。しかもスクープされることを恐れて走行時間は営業時間外に夜間に限られ、時間は午後7時をまわっていたほど。