クルマ側で人間のミスによる事故はゼロにできない? いまの先進安全装備で防げる事故の限界とは (2/2ページ)

走行中にアクセルを全開にし続ければ障害物があっても止まらない

 その意味では「自動ブレーキ」と呼ばれることもあるAEB(Autonomous Emergency Brake、衝突被害軽減ブレーキ)も、機能とカバー範囲を理解しておくことが重要だ。まず基本的なことをいえば、AEBは日常的なブレーキングを行なう機能ではない。あくまでもドライバーがよそ見をしていたり、正常に前方の状況を見ていなかったりするときに、緊急ブレーキをかけるものである。

 ドライバーがミスをしなければクルマを買ってから手放すまでAEBが一度も作動しないことがあってもおかしくない。あくまでも“保険”的な機能であるというのが大前提である、自動ブレーキが付いているからといって安心してしまうのは間違いだ。

 また、AEBの機能についてカタログなどでは車両だけを検知するのか、歩行者やサイクリストも認識できるのかといった違いをアピールしているが、もっと重要なのは作動する速度域。たとえば上限80km/hであれば、高速道路などで100km/hで巡行しているときには、もし前方に停止しているクルマを見つけたとしてもAEBが作動しないこともある。

 もちろん、歩行者を検知できないシステムでは、対歩行者の交通事故を防ぐことはできないといえる。また、アクセルを踏み込んだ加速中にはドライバーの操作がオーバーライドしてしまうので、AEBがキャンセルされてしまうこともある。

 さらにAEBの作動タイミングというのはドライの舗装路で、タイヤの状態も劣化していないことを前提としている。そのため雨や雪といった天候下ではAEBが作動したとしても十分に減速できないこともある。悪コンディションになるほど、ドライバーの自制心が大切になってくるのだ。

 駐車場などでアクセルとブレーキのペダルを踏み間違えてしまうと大きな事故につながることがある。そのためペダルの踏み間違い防止装置というのは、非常にニーズが高まっている。最近のクルマでは前後ソナーセンサーを基本に、ミリ波レーダーなども併用して駐車場などでの踏み間違いによる事故を防ぐ機能が充実している。

 しかし、こと走行中の踏み間違いになると、ほとんどの「踏み間違い防止機能」は役に立たない。たとえば市街地において赤信号で止まろうとしていて間違えてアクセルペダルを踏んでしまったようなシチュエーション。前方にクルマがいればAEBが作動することもあるが、前が開けた状態ではペダルの踏み間違えとは認識できずに、クルマの暴走を許してしまう。

 赤信号に連動して停止させる機能も実装されていない現状では、前方に障害物がない状態でのアクセル全開は単にドライバーが速度違反をしているだけであって、クルマの側からすると危機的状況とは認識できないのである。

 現時点では、市街地でアクセルペダルを全開になるまで踏み込んでしまって暴走したような事故を防ぐことが期待できる先進安全装備はない。ほとんどの踏み間違い防止機能は15km/h以下に作動速度域が限られている。また、低速域で踏み間違い防止機能が働いていったん加速を抑制したとしても、ドライバーがアクセルペダルを踏み続けていると機械をオーバーライドしてしまうことがあるのはAEBと同様だ。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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