過去にはトヨタや輸入車も搭載していたが……
向かい合ったピストンの動きから「ボクサーエンジン」とも呼ばれる水平対向エンジンは、いまやポルシェとSUBARUくらいしか採用していない。シリンダーが寝ていることから、レーシングカーのように搭載位置も下げられるイメージもあり、低重心に寄与するばかりか、フロントに搭載した場合には歩行者保護のスペースも確保しやすいなどメリットも多そうである。だが、なぜ四輪においては他メーカーの採用例は見当たらないのだろうか。
国産の水平対向エンジンといえばSUBARUの専売特許的なイメージもあるが、他メーカーは作ったことはないのだろうか? 否、日本ではトヨタが水平対向“2気筒”エンジンをパブリカやトヨタスポーツ800などに搭載していたことがある。
海外に目を移すとシトロエンやアルファロメオにおいては水平対向エンジンが主流だった時代もある。シトロエンでは、かの有名な「2CV」のエンジンは空冷の水平対向2気筒エンジンであった。アルファロメオでは「アルファスッド」に搭載されていた水平対向4気筒エンジンが知られているところだ。そのエンジンは、1990年代まで作られ、最後はアルファロメオ145に搭載されていた。
シトロエン、アルファロメオとも水平対向エンジンをフロントに搭載した前輪駆動なのは、SUBARUと基本的には変わらない。一方で、ポルシェにつながるフォルクスワーゲン・ビートルの水平対向エンジンはリヤに搭載したRRレイアウトを基本としていた。
まずは前輪駆動の水平対向エンジン車が徐々に消えていった理由だが、それは水平対向エンジンのシルエットが幅広になってしまうことに起因している。SUBARUを含めて、1960年代〜1980年代における水平対向エンジンはOHVとなっていた。つまりクランクシャフトの真上あたりにカムシャフトを置き、そこからヘッド方向にプッシュロッドを伸ばしてバルブを動かしていた。
この方式であればヘッド周りはコンパクトにできるが、DOHCのようなオーバーヘッドカムシャフトのレイアウトにすると一気に幅が広くなる。左右にカムが必要となるため4気筒としては部品点数も増えるし、カムを駆動するベルトやチェーンにしても長くなってしまう。なにより、エンジンの幅が広くなるということは、それを収めるだけのボディサイズが必要になる。また、エンジンがホイールハウスを制限してしまうためタイヤの切れ角も確保しづらい。
すなわち、前輪駆動とDOHCヘッドの水平対向エンジンというのは基本的には相性が悪いのだ。SUBARUはレイアウトの工夫によって、その問題をクリアしてきたが、5ナンバーボディ時代のレガシィなどは切れ角が少ないという指摘を受けていたのも事実だ。
ポルシェのようにボディの後端に積んでいるのであれば、エンジンが幅広くなったからといってタイヤ切れ角への影響はないが、スポーツカーにおいて重要な空力にはネガとなる。とくにフロア下の空気を吐き出すディフューザーを設置しようと思うと、リヤに積んだ大きなエンジンが邪魔になってくる。ポルシェ911のレーシング仕様としてル・マン24時間耐久などで活躍している「RSR」が、エンジンをミッドシップレイアウトに変更しているのはレギュレーションに対応するためだが、空力性能を追求するとリヤにエンジンを積んでいることが不利になってしまうからだ。