重心を下げられるという「噂」が一人歩きしすぎ
さて、水平対向エンジンのピストンやクランクシャフトの位置関係を見ていると、かなり低く積めるような気もするが、実際にはそうでもなかったりする。上側に吸気、下に排気とレイアウトしている場合、エキゾーストマニホールドやキャタライザー、ターボチャージャーといった排気系のメカニズムをエンジン下に置かなければならない。また、エンジンオイルをウエットサンプにしている場合は、オイルパンも必要だ。そのため直列エンジンに対して圧倒的に重心が低いというわけではない。
実際、ランサーエボリューションとWRX STI(旧型)を比較するとランエボの重心高のほうが低かったりした。もちろん、重心高にはボディ設計や補機類の配置なども影響するためエンジンの搭載位置以外の要素もあるのだが、それにしても水平対向エンジンだからといって圧倒的に重心を下げられるわけではないのだ。
なにより、水平対向エンジンを搭載するには縦置きにするしかない。現在の主流であるエンジン横置きを前提に開発されたプラットフォームに、水平対向エンジンを搭載することは難しい。エンジン幅の課題や、重心高に対するアドバンテージがそれほどでもないという事実を考えると、あえて水平対向エンジンを新規開発するモチベーションは湧いてこない。それがSUBARU以外のメーカーが乗用車に水平対向エンジンを搭載しない理由だ。
逆に、SUBARUについていえば水平対向エンジンを前提にした生産設備を活かすためには、今さらエンジン横置きのプラットフォームに変革するメリットはない。さらに、SUBARU、ポルシェともに「ボクサーエンジン」がアイデンティティとなっているのだからなおさらだ。