中谷氏の理想的なパッケージはサーキットで速さを見せつけた
というのは1997年頃から三菱自動車でランサー・エボリューション(ランエボ)の開発に関わり、さまざまな意見を出し反映してもらってきていたが、そのなかで実現したかったアイテムが、いくつもR35型GT-Rに取り入れられていたからだ。
たとえばフロントサスペンションのストラットタワーハウジング。この部材をアルミダイキャストで作るとサスペンション保持剛性が高まり操縦安定性が高まる。BMWが2003年からE60型5シリーズで採用したのをはじめとし、ジャガーXJなど多くの欧州車に拡大採用されている。また左右ドアパネルをアルミ鍛造製として軽量化。これはポルシェがタイプ996の911ターボで初採用したもので、サプライヤーも米国ALCOA社と同じだったのだ。
リヤバルクヘッドもアルミダイキャストで一体成型するなど欧州車のトレンド技術を余すところなく取り入れていた。サスペンションアームもほとんどがアルミ製でバネ下重量を軽減。ブレンボのブレーキシステムやビルシュタインのショックアブソーバーなど完璧だった。
トランスミッションはボルグワーナー社製の6速DCTで、ランエボXで採用したゲトラグ製に対しクラッチ容量を大幅に増やし、ローンチコントロールの多用にも耐える。それにはオイルクーラーなどクーリング性能も重要視されている。
また空力的性能も抜群で、ラジエターをクーリングしたエアが車体下部を流れ後方に抜けさせる際にボディ下部にベンチュリー効果を与えダウンフォースを稼ぎ出す。どれもこれもランエボに盛り込みたい技術ばかりで、これだけやっても登場初期の価格設定が800万円前後だったのだから、これは安い! と思ったものだ。
実際にGT-Rは走らせても速かった。試乗会は仙台ハイランドや富士スピードウェイ、スパ西浦モーターパークなどサーキットで行われたが、どちらのコースでも市販車としてのコースレコードを簡単に叩き出せた。
R35型GT-Rが登場してから10年以上。いまだフルモデルチェンジを行わず年次改良のみで販売を続けている。ここまでの進化では快適性の向上が果たされ、サーキットでの速さはさほど向上はしていないが、国産モデルとしては今でも最速モデルとして君臨している。
そして今後もR35型GT-Rを超えるような量産モデルは登場しないだろうと考えている。電気自動車や自動運転、安全運転支援システム、衝突安全性など自動車メーカーが抱える問題は極めて多く重要だ。そんな環境でGT-Rを超えるような速いクルマを生み出せる余裕はどのメーカーにもない。内燃機関搭載の最速国産車であるR35型GT-R。新車で買えるのもそう長くはないはずだ。