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一切の妥協を許さないピュアスポーツカーを! 開発責任者の多田哲哉さんが新型トヨタ・スープラへ込めた思い (1/4ページ)

一切の妥協を許さないピュアスポーツカーを! 開発責任者の多田哲哉さんが新型トヨタ・スープラへ込めた思い

「飛行機に例えるならば、86は練習機、スープラは戦闘機です」

 トヨタファン、そしてスポーツカーファンが待ちに待ったスープラがついに復活。開発責任者を務めたのは、86を手がけたことでも知られる多田哲哉さん。そんな多田さんと、開発チームのキーマンたちに、新型スープラに込めた想いと、プロジェクトの舞台裏を語っていただいた。

 17年の時を経て、ついに復活したスープラ。開発責任者を務めたのは、トヨタ86のチーフエンジニアとしても知られる多田哲哉さん。このふたつのモデルは、同じスポーツカーでありながら、性格は大きく異なると語る。「飛行機に例えるなら、86は練習機。一方のスープラは戦闘機。限界が非常に高く、ある領域を超えると、ドライバーに高い運転技量を要求するクルマです。ピュアなスポーツカーとするために、快適性などについてかなり割り切っています」

 その代表的な例は、一般的なクルマではありえないほど太いサイドシルだ。

「サイドシルとは、ドアを開けたときの敷居部分のことですが、ここは幅を拡げれば拡げるほど、ボディ剛性が高くなります。骨格の強度を低い位置で担えるので、重心も低くなります。スポーツカーにとって、いいことづくめなんです。実際、新型スープラは、水平対向エンジンでもないのに、低重心設計の86よりもさらに重心が低く、その一方でボディ剛性は2.5倍も高いんです。ただし、雨の日にスカートを履いた女性が乗り降りしたら、裾が泥だらけになってしまいます。乗降性はお世辞にもいいとは言えません。走っていないときのことは考慮しなくていい。新型スープラはそんな考えで作ったクルマなんです」

 こうしたクルマづくりが可能だったのは、86という弟分がいるからこそだった。

「じつは86でも、ルーフ内部の消音材を全廃するなど、低重心のために快適性を犠牲にした部分があるんです。大雨のときに乗ると、車内はすごくうるさいんですよ。トヨタのサービス部門も、絶対にクレームになると心配していました。そこで86では、エリア86という専売センターを設けて、お客さまにきちんと説明できるスタッフを常駐させたんです。納得して買っていただいたお客さまのなかには、実際に大雨の日にお乗りになって『本当にうるさいけど、こういう設計だから低重心の気持ちいい走りが実現できるんだ』と、喜びの感想をSNSにアップしてくださる方もいらっしゃいました。単に販売するだけでなく、楽しみ方もしっかりとお伝えすれば、きちんと理解していただける。そんな実績を86で作ったことが、今回の突き抜けたクルマづくりを可能にしたんです」

 86があったからこそ実現できた新型スープラ。と同時に、86でできなかったことも盛り込んだと語る多田さん。

「86を開発したときのトヨタは、量産スポーツカーの生産を何年も前にやめていました。当時のトヨタは、運転技量を問わず誰でもうまく走れるのがいいクルマという考え方に基づいて、より多くのお客さまに喜んでいただけて、たくさん売れるクルマづくりをしていました。そこで復活したのが86でしたから、あまり尖ったスポーツカーにはできません。とはいえ、漫然と乗っていても運転が変わらないクルマでは、スポーツカーにする意味がない」

「そこで考えたのが、長年スポーツカーから離れていたトヨタファンの皆さんに、まずはクルマをコントロールする楽しさを思い出してもらえるクルマにすることでした。あえて限界性能を低く設定して、スポーツカーの限界域での挙動を、安全な領域で練習できるようにしたんです。タイヤをプリウスと同じものにしたのも、同じ理由です。練習でタイヤをすり減らし、スポーツタイヤに交換すれば、タイヤを変えるとクルマってこんなに変わるのかという楽しさも知ることができます。86のおかげでトヨタのスポーツカーファンの腕も上がりましたし、スポーツカーとの付き合い方も定着しました。そうした状況があるから、新型スープラのような尖ったクルマが出せたんです」

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