性能はもちろんエキゾーストサウンドにも意味を持たせる
そうしたトヨタらしさの表現において、新型スープラにおけるポイントと言えるのがエキゾーストサウンドの作り込みだ。とくに6気筒エンジンは、ターボとは思えないほどの高い周波数の快音に仕上げられている。また4気筒は、ターボらしいビートの効いたサウンドだ。どちらもSPORTモードを選ぶとアクセルオフで「パン!」といったアフターファイア的な演出もある。
初期の試作車を評価した薮木さんがエンジンサウンドについて課題を感じたということも記したが、完成したスープラが奏でるエキゾーストノートは、まさしくトヨタの考えるスポーツカーサウンドを実現したものだという。その音づくりにおいて注力したのが福原千絵さんだ。
「多田から『サウンドに意味を持たせたい』と言われたのは2016年の夏頃でした。スポーツカーらしい官能的で気持ちのいいサウンド、音だけでスープラが近づいてきたとわかるようにしたい、という希望もありました。そこから音づくりに入っていったわけです」と福原さんは、プロジェクトへの関わり始めを思い出して教えてくれた。
最近ではエンジンサウンドを電子音として作り込み、キャビンにスピーカーから流すという手段もある。しかしスープラではエキゾーストエンドから発するサウンドとして作り込んでいる。これはドライバーだけでなく、誰もがスポーツカーの魅力を味わってほしいという意思が入っていることの証左と言える。
「ですから、電子デバイスで音づくりをする以前に、ハードウェアによってそれぞれの音を作り込みました。6気筒は伸びやかなサウンド、4気筒はシンプルでスマートなサウンドを目指しています。またアフターファイア音については、スロットルや点火によって演出しています。これはドライバーの操作がクルマとつながっていることをフィードバックできるよう考えてのものです」と福原さんは続ける。
じつは多田さんからはサウンドによって『手応えをシャープにしたい』というリクエストもあったという。スポーツカー、スーパーカーのエキゾーストノートというと単に爆音にしておけばそれっぽいと思うかもしれないが、ドライバーが愛車とつながっていることを実感できる音づくりがスープラにおいてはなされたというわけだ。そして、音づくりで得たノウハウはスープラに限った話ではないのだという。
「スープラの開発における音づくりというのは、ある意味で客観的な立場からでした。それによってトヨタのよさであったり、改善点であったりが見えてきたのは、未来につながる収穫です。さらに言えばトヨタのスポーツカーを担うGRカンパニーとしての音づくりについて、しっかりとした知見が得られたと感じています」と福原さんはまとめる。
では、新型スープラの開発によってほかのお三方も同様に得たものはあったのだろうか。まずは石川さんから伺ってみた。
「たとえばロールオーバー対策として、トヨタではAピラーからルーフにかけてかなり丈夫に設計するのですが、BMWは異なるアプローチで安全性を確保していたのは発見でした。そうした新鮮な発見はお互いにあったと思います。また、スープラのボディ設計を煮詰めていくなかで、GRが作るスポーツカーはどうあるべきか、という部分で認識が明確になったとも感じています」
品質面で尽力した薮木さんには、また違った印象があるようだ。
「どちらもスタッフは少数精鋭でした。それだけに非常に密度の濃いコミュニケーションがとれたことが印象深く記憶に残っています。コミュニケーションの結果が製品にどんどん反映されていき、非常にやりがいを実感できるプロジェクトでした」
最後に川崎さんの思い出を伺った。
「ここまで運動性能にこだわったクルマを開発したのは初めてです。言語的に細かいニュアンスでのコミュニケーションには苦労もありましたが、薮木が言うようにどんどんスープラらしくなっていったことは印象的です。トヨタだけでは作れなかった、協業だからこそできたスポーツカーがスープラだとあらためて思います」
新型スープラがトヨタとBMWの共同開発によるというのは紛れもない事実だ。しかし、トヨタがスープラの開発をBMWに丸投げしたという巷の声は事実ではない。今回、ボディ設計、性能品質、性能開発、音づくりと、それぞれの局面において関わった4名のエンジニアに話を聞くことで、トヨタの意思が強く入っていることを確認することができた。しかし、トヨタだけでスープラを生み出すことができたのかと言えば、それは事実ではない。川崎さんが言うように新型スープラは『協業だからこそ生み出すことができた』スポーツカーなのである。