素性のよさを生かしながらトヨタの知見を注ぎ込む
スープラの開発において、目標性能などを設定した川崎さんに、具体的な内容を聞いてみよう。
「さまざまな要素をレーダーチャート化して、スープラの求める走りを具体化していくわけですが、大きな要素としては3つのポイントがありました。それは、ステアフィール、シフトフィール、旋回性能です。それぞれ具体的な目標を整理すると、ステアフィールにおいては『ステアリングを切っていくほどフィードバックがあって、タイヤを感じることができる』というのがテーマでした」
「新型スープラは8速ステップATの設定ですが、ATにおけるシフトフィールで重要なのは『ダウンシフト時のエンジン回転の上がり方』にあります。スポーツカーらしい切れ味のあるフィーリングが必要だと考えました。そして、旋回性能では『GRブランドとしてニュートラルステアに近いフィール』が求められます。もちろん、高い旋回Gを受けているときの安心感なども重要です」
ここまで、新型スープラについてはハンドリングの話が多くなっているが、それはスープラの立ち位置において、スポーツカーとして重要なポイントがコーナリング性能であるからだ。また、スープラにおいては、いわゆるスーパースポーツ(スーパーカー)と最高出力を比較するのもナンセンス。伝統を受け継いだ直列6気筒ターボエンジンにしてもピークパワーは250kW(340馬力)であるし、2種類のスペックを持つ4気筒ターボエンジンは190kW(258馬力)、145kW(197馬力)にとどまる。最大トルクは6気筒が500N・m、4気筒が400N・m、320N・mとなっており、いずれもターボエンジンらしく1500rpm前後から最大トルクを発生する。
前述したように1410〜1520kgの車重を考えれば十分なことは理解できるが、それでも異次元の加速フィールでスポーツカーらしさをアピールするというレベルではない。スペックからはあくまでハンドリングありきで、それに見合ったパワーユニットを選んだという印象を受ける。開発を振り返ったときにボディやシャシー系の話が多くなるのは宣なるかなである。
さらに川崎さんが興味深いひと言を述べた。それは「素性のいいプラットフォームだったからこそ、トヨタの味を入れるのが難しかった」というものだ。一見すると素性がよければ味付けもしやすいと思いがちだが、うまく出汁のとれたスープに、塩を加えすぎては本来のよさが台無しになるのも事実。ベースが優れているからこそ、味付けには慎重にならざるをえない。