そんなに段数必要? 10速も実用化されるなどATの多段化が止まらないワケ (2/2ページ)

国産初のATは1955年に登場する

 ここで日本車のATの歴史を振り返ってみよう。ATといえばアメ車というイメージだが(実際は1950年代ぐらいまではMTのほうが多かった)、日本車でもATの歴史は意外に古い。最初はたったの2段。意外なのが初めてのトルコン式ATは岡村製作所が作ったもの。岡村製作所は現在、事務機器を作るオカムラとしてお馴染みだが、1955年に発表されたミカサに初搭載された。

 岡村製作所には航空機の技術者がいたことから、新技術に意欲的で、じつは飛行機も試作しているほど。トルクコンバーター自体が、アメ車を参考にしてはいるが国産初で、AT自体も自社製。「ノークラッチOKドライブ」の愛称が付けられて、マツダのR360クーペにも岡村製作所のトルコンが搭載されている。そのほか、国鉄のディーゼル機関車や集材機など、幅広い産業で使用された。

 さらにミカサの凄いところはシトロエンの2CVを研究して作られたこともあり、FFを他社に先駆けて採用していたということ。さらに航空機技術を使ったボディパネル製作や家具技術を使った内装など、自社のもつ技術を存分に投入して作られた。その後、スポーツモデルのミカサツーリングやトラックのマークIやマークIIも登場し、大いに話題になったし、他メーカーにもトルコンを販売するほど性能もよかったが、それ以上の開発リスクを負うことができずに自動車からは撤退してしまう。

 ただ、オカムラでは産業用のトルコンを今でも作っているし、ミカサは東京の赤坂にある「オカムラいすの博物館」に展示され、表の歩道からも見ることができるので、近くに行かれた際はぜひ寄って見てみてほしい。

 その後、自動車メーカーではトヨタが熱心で、トルコン式(つまりノークラ)でシフト操作だけは手で行なうトヨグライドを1959年にマスターラインに初搭載。その後、アイシンとボルグワーナーと提携してアイシンワーナーを設立して、トヨグライドも完全自動変速、そして段数も次第に増えていくことになる。

 このように、日本におけるATの歴史はすでに60年以上にもなるのだ。ちなみに日本のお家芸、CVTの初は1987年に登場したスバルのジャスティで、日本初のみならず、世界初の市販化だった。三菱電機と共同開発した電磁クラッチ式のもので、ギクシャク感がすごく耐久性にも劣っていたが、フィアットに供給されるなど一定の評価はあったと言っていい。その後、トルコン式にすることで問題を解決。現在に至っている。


近藤暁史 KONDO AKIHUMI

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