これでホントに公道走る気? レーシングドライバーでも躊躇するスパルタンすぎるクルマ3選 (2/2ページ)

ポルシェ好きでも「ちょっと……」と考えさせられるモデル

2)ポルシェ911カレラRSクラブスポーツ(993型)

 僕は言わずと知れたポルシェフリークであり、とくに911には大きな敬意と憧れを持っている。自身も長年964型の911ターボを所有していた。ポルシェ911はいつの時代も常に最新モデルが最良であったし、ポルシェ911から学ぶことは多かった。

 そんな911の歴史のなかで唯一「これはちょっと……」と感じさせられたのが空冷モデル最後の911となったタイプ993型のRSモデル「クラブスポーツ」だ。RSクラブスポーツはロードカーでありながら室内にロールケージが張り巡らされたスパルタンなモデルで、現在のクラブスポーツ仕様の走りとなったものだ。

スポーツカー

 室内の内装は徹底的に排除されドアの開閉レバーもベルトバンドに替えられている。床や天井もほぼ剥き出しであらゆるノイズがダイレクトに入ってくる。通常の911は後席がある4人乗りだが、その後席部分には複雑なロールケージが張り巡らされ鞄も置けない。そのため一般道での実用性は皆無に近かった。

 それでもポルシェ911なら速ければすべてが許されるはずだったが、この911カレラRSクラブスポーツはそれほど速くなかったのが大きな問題だったのだ。エンジンは最後の空冷フラット6となる3.8リッター自然吸気仕様。

 ローギヤでクロスレシオのギヤ比配分としてスタートダッシュは強烈だったが、エンジンが高回転域になるとエア不足からかトルクの落ち込みが激しく頭打ち感が強かった。リヤウイングにエアインテークを備えたが低速域では吸気が十分でなかったのだろう。

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 ポルシェが誇る可変吸気システムのバリオラムを備え中速トルクを増大させた結果、高回転域の伸びに頭打ちを覚えさせられたのかもしれない。

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 また当時993型には911ターボもラインアップされていて、911ターボの快適性と圧倒的なパワー、速さを知ってしまうとRSクラブスポーツのスパルタンさと速さのバランスに疑問を感じさせられたのだった。

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 だが、この993型911カレラRSクラブスポーツは生産台数の少なさと希少性の高さから最近は数千万円で取引されているという。

3)BMW M4 GTS

 BMW M4 GTSもまたスパルタン過ぎる車として紹介すべきモデルといえるだろう。その出立ちはレースカーそのものと言っても過言ではない。

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 極端に低い車高に可変式の前後スポイラーを備える。可変といっても電子制御で自動的に変化させられるのではなく、コース特性や車速に合わせてメカニックの手でボルトを外して手動で調整する。

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 リヤウイングは3段階に調整でき、これはなんとか自分でもできるが、フロントのチンスポイラー(スプリッターと呼ばれている)はジャッキアップした上に6本のボルトを外し前方に適切な分量を引っ張り出し6N・mのトルクでボルト止めしなければならない。

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 ショックアブソーバーもマニュアル可変式で、ニュルブルクリンク北コース用セットアップ方法が取扱説明書に書かれているなど一般道を走ることなどほとんど考えていない様子。

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 おまけにリヤトランク内にはエンジンのシリンダーに水を噴射し燃焼温度を下げてパワーを引き出すウォーターインジェクション用タンクを備え、その分量はニュルブルクリンク北コース1周に丁度いいという。

 室内に張り巡らされた剥き出しのロールケージは後席を完全に封鎖していて荷物は積み込めない。硬いサスペンションで路面を弾めばロールケージに頭をヒットし一般道でもヘルメットを被っていたいくらいだ。

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 欧州では休日にサーキットを走って楽しむ文化が定着していてM4 GTSのような本格的なサーキット走行を楽しめるクルマの需要が一定数あるといえるが、国内においてはスパルタン過ぎて、もはや飾っておくしかない。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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