ウエット路面を忘れさせる圧倒的パフォーマンスを披露
軽量化+強力なブレーキシステムの導入こそが、GT-R NISMOの走りをさらなる領域に高める。R35GT-Rの統括責任者である日産自動車の田村宏志さんは、新しいNISMOに関して「パワーを上げずとも、トータルバランスを高めることでクルマの走りはガラリと変わります。全開でぜひその性能を試してみてください」と自信満々に語ってくれた。そう、筆者はまだ正式発売前のGT-R NISMO MY20にサーキットで試乗する特別なチャンスを得たのだ。試乗ステージは北海道東部の雄大な平野に位置する「十勝スピードウェイ」。生憎のウエットコンディションとなったが、思う存分新しいNISMOの走りを堪能することができた。
十勝を走るのは10数年ぶりということもあり、1周目はゆっくりとコースに慣れることに徹することにした。トランスミッションはM(マニュアル)ではなくA(オートマチック)のRモードを選択。サスペンション/VDC-Rのスイッチも同様にRモードにセットしてコースイン。ピットアウトする際、サスペンションが低速でもしっかりと動くことがわかる。ダンパーの減衰力がもっともハード側に固定されるRモードにも関わらず、である。
軽く加速したあと、1コーナーのかなり手前でブレーキを「試し踏み」してみたところ、これまでGT-Rでは味わったことない、地面にグイッと食い込むような減速感に襲われる。もはや全開にするまでもなく、MY20のNISMOが従来モデルとは別物であることを悟ってしまった。
ウォームアップランを終えると、翌周からは自然とペースがアップ。ピットアウト直後のファーストコンタクトで、そのポテンシャルの高さを即座に感じることができたからだ。ブレーキが利くクルマほど安心なモノはない。加えて、R32型以降のGT-Rの伝家の宝刀とも言えるアテーサE-TSのトルクスプリット4WDも、ウエットコンディションでの恐怖心を確実に和らげてくれる。試乗前は「雨か……」と思っていたが、逆にウエットだからこそ新しいGT-R NISMOの進化がリアルに伝わってきたと言えよう。
3周目以降はマージンを残しつつ、ある程度限界まで攻め込んだ走りを試してみた。従来モデルのハンドリングも重量級のハイパワー車としてはクイックだったが、MY20はさらに輪を掛けて「曲がる」クルマに変貌。ステアリングを切り込んだ瞬間からリニアにノーズがインを向き、コーナリング中は4輪がしっかりと接地して路面を掴む、そして立ち上がりでは4WDのトラクションを生かしてグイグイ加速。これまで、雨のサーキット走行が楽しいと感じられることはあまりなかったが、今回は違う。
そしてもうひとつ忘れてはいけないのは、その楽しいコーナリングの手前にある「減速」だ。カーボンセラミックブレーキはペダルの初期から奥まで制動コントロール性の幅が広く、ABSが介入してもしっかりとした減速感が伴う。ペダルに伝わってくるABSの反力も決して大げさではない。カーボンセラミックおよび大径化というマテリアルに起因するものだけではなく、ABSの制御の緻密さと精緻さもそこから感じ取ることができる。
また、摩擦μの低いウエットにも関わらず、フルブレーキング時の減速Gも相当なモノで、これがドライ路面だったら「どれだけ止まるの?」と思わずにはいられない。機会があればぜひもう一度サーキットで試してみたい。そう思わせるほどのキャパシティを持っているブレーキだ。
どうしてもインパクトの高いブレーキに目が行きがちだが、今回感じたポテンシャルは軽量化されたボディ上屋に起因する軽い身のこなしやサスペンションのリセッティング(バネ/ダンパーともに仕様を変更)、そしてトレッドパターンやコンパウンドに留まらず、構造まですべてを見直したというNISMO専用のランフラットタイヤ(ダンロップ製)によるところも大きいと思われる。
仮にその内のどれかひとつでも性能的に欠けていたら、とてもじゃないがウエットのサーキットをここまで安心して走ることはできない。つまり、これこそ田村宏志さんが言っていた「トータルバランス」の成せる業、ということなのだろう。
「速さの追求」=「パワーアップ」という手段だけにあらず。GT-R NISMO MY20の速さは、絶大な安心感と高バランスの上に成り立っていることを実感できる試乗であった。気になるGT-R NISMO MY20の正式発売は2019年10月予定とのこと。なお、GT-R NISMOおよび基準車のMY20のインプレッションに関しては、2019年8月1日発売予定の「GT-R Magazine」でさらに詳しくリポートする予定だ。