再デザインした際に導き出したクロスオクタゴン
新たなスケッチの提出までの猶予期間は1カ月。圧倒的に時間が足りないうえ、そもそもこれまでの段階でも膨大なアイディアが検討されている。デザイナーたちにとっては、乾ききった雑巾をさらに絞ろうという行為に等しいものだったろう。エクステリアデザイン担当の井口大輔さんは次のように振り返る。
「あのときが一番苦しい時期でしたね。ゼロからのスタートで、みんなで必死にスケッチを描き続けました。そのなかで見つけ出したモチーフがクロスオクタゴンだったんです」
クロスオクタゴンとは、幾何学形状のふたつの八角形(オクタゴン)を90度ずらしてはめ合わせた造形テーマだ。
「きっかけは、アドベンチャー&リファインドというデザインコンセプトと、それを具現化させるための3つのポイントに立ち戻り、それを純粋にカタチで表してみようと思い立ったことでした。オクタゴンのひとつは、ボディを真上から見たときのものです。四つの角が切り落とされているのは、高い走破性を実現させるための機能をカタチにしたものです。もうひとつは真横から見たもので、リフトアップや、デパーチャーアングル、アプローチアングル。さらには後方視界も考慮したバックライトアングルなどのために四つの隅を落としたオクタゴンです」
どっしりとした安定感がありながら、今にも転がり出しそうな躍動感を備えていることも、オクタゴンモチーフの魅力のひとつ。力強い塊感も想起させ、本格SUVにふさわしいモチーフと言える。ちなみにクロスオクタゴンのスケッチを考え出したのも、井口さんだ。
目標は定まったものの、クロスオクタゴンを描いたキースケッチは、あるべきはずの4枚のドアが描かれていない。リヤドアのヒンジやウインドウの昇降、ドアビームといった内部の機能部品など、それらの要件を満たしながらこのフォルムを立体化するのは至難の技だ。そんな離れ業を短い時間でやり抜くことができたのは、設計やモデラーなど、さまざまな部署が全力以上の力で取り組んでくれたからと語る井口さん。エンジニアたちを動かしたのは、まさにデザインの力だったと言うべきだろう。
こうして中期段階の立体モデルの熟成が進められる頃になると、アドベンチャーのデザイン開発もスタート。担当したのは坂上元章さんだ。
「一般的な車種の派生グレードでは変更箇所がバンパー程度ということも多いのですが、新型RAV4のアドベンチャーでは、アーチモールやリヤのスキッドプレート、専用ホイール、2トーンのボディカラーや内装専用色など、変更箇所は個別の車種に見えるほど広い範囲におよんでいます」
ノーマル、アドベンチャーともフードは共通しているが、よく見るとフロントマスク上端の水平ラインがノーマルではヘッドライトよりも下に。そして、アドベンチャーでは上に位置している。このデザインを実現するため、アドベンチャーではフード先端に隣接する面にいったん段差を付け、重心位置をぐっと上げた形で面が連なるという細かな工夫が施されている。これは一般的なデザインセオリーにはない特異な手法だが、その結果、アドベンチャーのフロントマスクはノーマル以上に強い存在感を放つ仕上がりとなっている。