ステアリング操作やブレーキペダルのタッチにもこだわりが
まずはファストバックのXD PROACTIVE ツーリングセレクションでゆっくりと、ショッピングセンターの駐車場で空いている駐車スペースを探しているような速度で走りだせば、1.8L、116馬力、27.5kg-mのスペックを持つクリーンディーゼルエンジンは、滑らかに、静かにマツダ3を走らせる。東京ディズニーリゾートの駐車場もそうだが、途中、パイロンが立ち、低速でステアリングを切るようなシーンに遭遇したりするが、その際、クルマが向きを変えても、肩が多少揺れても、頭の動きはないに等しい。
それがスカイアクティブ・ビーグル・アーキテクチャーの効果なのだが、低速のみならず、交差点の右左折、車速を上げたS字カーブが連続するようなワインディングロードの走行でも威力は絶大。すでに述べたように、シートの形状的サポートはほぼないにもかかわらず、お尻の沈み込みや、座面先端を持ち上げ、座面と太股裏をしっかりと密着させることができるサイサポート機能によって最適なドライビングポジションを決められれば(というか、決めないと意味なし)、高速レーンチェンジや山道走行でも、上半身に自由度がありつつ、お尻と腰がしっかりとホールドされ、なおかつ頭の動きは最小限のドライブが可能になる。
つまり、視線の動きも少ないため、長距離・長時間の運転(乗車)でも、疲れない。乗り心地に関しては、テストコース内のみの走行ゆえ、公道試乗での印象を待ちたいが、大径18インチ専用タイヤの縦バネの洗練されたやわらかさが際立つ、段差やうねりを乗り越えてもマイルドなタッチが好ましく感じられた。
マツダ3は安定感も抜群だ。大径ステアリングによるステアリングレスポンスの良さ、リヤタイヤの踏ん張りの良さのバランスが見事で、マルチリンクからトーションビームに、一見、スペックダウンしたかのようなリヤサスペンションも、じつは人間中心のチューニングに基づく変更だという。
ブレーキのコントロール性も抜群である。日常的な踏み始めからのタッチはソフトで踏みやすく、コントローラブル。一方、緊急時など急制動を要する奥では、ガッチリとした剛性感と制動性を持っていた。
エンジンの動力性能は、ある意味、スペックから想像する以上でも以下でもない。CX-5などに積まれる、2.2Lユニットの濃厚なエンジンフィール、豊潤なトルク感はないものの、むしろ爽(さわ)やかで穏やかな動力性能に好感が持てた。人間の足の筋肉に着目した、ペダル操作に対する加速度、コントロール性、自在度UPの思い通りの加速感も、そうした印象を支えるマツダらしい、スペックに現れない開発陣渾身の配慮である。マツダ3は「日常を鮮やかにする実用車」であり、スポーツハッチバックではない。ちょうどいい性能と言い換えてもいいだろう。