エンジニアよりもテストドライバーの意見を重視するメーカーも
ただ電動パワーステアリングで意図的にこの手応え領域を作り込んでいるクルマもあり、そうした見せかけ制御のクルマはステアリング位置は真っすぐなのにホイールは微小に左右に振られ車体がふらついていたりする。またエンジンのドライバビリティやトランスミッションの変速制御などが「意のまま」にコントロールできることも求められ、こうした部分を作り込んでいくにはサスペンショや車体各部のチューニング、電子制御される部品のプログラミングやキャリブレーションとのマッチングなども極めて重要になってくるのだ。
従来、こうした領域は「感応性能分野」と言われ、数値化が難しくテストドライバーの感応評価に依存することが多かった。そのため優れたテストドライバーが多くいればそのメーカーのクルマの走りは仕上がりがよく、操りやすいと評される。
有名なところではポルシェやBMWなど独の自動車メーカーには優れたテストドライバーが多く在籍し、設計部門より発言権が強いという。エンジニアが数値的に「よし」としても、テストドライバーがOKを出さない限り採用されない。またテストドライバー自身もエンジニアリング能力があり、感応評価した部分を設計に落とし込んで改善する能力がある。
スポーツ性を高らかに謳うなら、さらにハイスピード領域においても同様な課題をクリアしなければならず、近年の500馬力を越えるようなハイパワーなモンスターマシンやAWD(4輪駆動)、4WS(全輪操舵)、前後左右トルク配分など複雑な機能を持つクルマを意のままに操れるように仕上げるには、レーシングドライバーの速度感覚+感応評価テストドライバーの繊細なセンシング感覚、それをエンジニアリングに落とし込める知的センスなど総合的な評価能力が不可欠といえる。
そうしたテストドライバーを「評価の匠」として捉えるなら、匠級テストドライバーが存在するかしないかで、そのメーカーのクルマがスポーティで走りがいいクルマとなっているかどうかの分け目となるといっても過言ではない。
こうしたモンスターカーをスポーティで走りがいいと言うには、操る側にも相応なスキルが必要なわけで、じつは一般的なドライバーにとっては「意のままにならない」クルマとなっていたりもする。誰がどこで、どのように評価したのかを知らないと本当にスポーティで走りがいいクルマなのかを判断することはできないだろう。