新車なのに測ったらパワーが出てない? カタログ値と実測値でエンジン馬力が異なるワケ (2/2ページ)

ターボエンジンはカタログ値を上まわる可能性も

 これはズルをしているのではない。チューナーによって補正値をどうするのかは判断がわかれるところなのだ。もともとシャシーダイナモはチューニングの成果を数字で確認するためという側面がある。そのため「ノーマルで●●馬力だったクルマが、チューニングによって●■馬力まで増えた」という判断ができればいいわけで、絶対値として扱う種類の数字ではない。補正値をいくつにしようと仕様変更の前後で同じ数字にしておけば問題ないという世界なのだ。なお、慣例で何馬力増えたという表現をしてしまうが、本来はナンセンス。仕様変更の成果を測るのであれば、何%増しになったと捉えるべきだろう。

 もし実機がカタログスペックを出しているかどうかを確認したければ、エンジンを降ろして、オイルなども新品に交換して、エンジンベンチで測定したのちに、メーカーが使っているのと同じ補正をかけるしかない。

 しかし、そこまでして計測する必要性があるだろうか。計測器の構成まで言い出すとキリがない。条件を同じにせずに、違う方法で測った数字を比較することに合理的な意味はないといえる。エアクリーナーまわりの処理、ラジエターの冷やし方だけでも差が出てくる世界なのだ。

 そうは言っても計測した「実馬力」とカタログスペックの差異は気になるところだろう。傾向としてNAエンジンはカタログ値より低め、ターボエンジンでは高めになる。これはNAエンジンが嘘をついているというわけではなく、過給エンジンはそもそも余裕があるケースが多いことに所以している。エンジン自体のポテンシャルを引き出すのではなく、トランスミッションなどの駆動系に合わせて抑えている傾向にあるのだ。

 カタログに掲載されたトルクカーブが水平になったフラットトルクは、エンジンの性能を引き出した結果ではなく、制御系で作り上げたフラットなラインであることが多いのだ。そのためターボエンジンでは計測値がカタログスペックを超えることが“まま”あったりする。

 ただし、本来的な話をすればエンジン単体での計測値を、ロスが増えるであろうタイヤのついた状態で測って超えるということは考えにくい。恣意的でないにしても補正による数値を比較すべきではない。何度もいうが、測定機器や測定方法が異なる数値を比較することに意味はないといえる。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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