マイナーチェンジという枠を超えた大改良と進化
先進安全装備の充実も新型デリカD:5の注目ポイントのひとつだが、吉岡さんによればこの点についても大きな苦労があったという。
「自動車では、各コンポーネントが相互に通信し合うためのCANと呼ばれる通信規格が使用されています。新型では、新しい世代のCANに対応した、先進安全装備などの新しいコンポーネントを採用するため、そのCANをすべて新しい世代に変更しているんです。マイナーチェンジでここまでやるというのは本当に稀なケースだと思います」
CANの世代変更をはじめ、先進安全装備の大幅充実など、今回の改良は、マイナーチェンジとひとことでくくってしまうのはもったいないような内容だ。プラットフォームに関しても、デザイン変更と対歩行者などの安全基準対応のために前後部分が変更されており、また、ディーゼルエンジンの浄化システムについても、三菱自動車初となる尿素SCRシステムを採用するなど、マイナーチェンジとは思えない大がかりな見直しが行なわれている。ここまでくると、むしろフルモデルチェンジにしてもよかったのではと思うほどだ。そんな疑問に対して、中島さんは次のように答えてくれた。
「サイクルがきたからといって、変えなくてもいい部分まで変えてしまうことは、個人的には少し疑問です。むしろ必要な部分に原資を注力して大きく変えてあげるほうが、より魅力的なクルマになるという考え方もあるんじゃないでしょうか。今回の大改良は、まさにその考え方に基づくものと言っていいと思います。こうしたことが可能だったのは、デリカD:5が、基本的な部分で本当によくできたクルマだったからだと思います」
大谷さんもこう付け加えてくれた。
「12年目でマイナーチェンジ。確かに長いスパンですよね。けれど、じつは歴代のデリカもそうだったんです。初代が誕生して50年。なのに、現在のデリカでまだ5代目ですからね。もちろん、フルモデルチェンジが多いことが悪いとは思っていません。時代の変化にしっかり応えようという作り手の想いでもあるわけですから。けれど、デリカのように一代一代が長く愛され続けてきたというのも素敵なことですよね」
おそらくデリカのフルモデルチェンジは、まだまだ先のことになるだろう。これほど大掛かりな投資を行なったマイナーチェンジは、その証と言える。
「われわれ開発陣は、これから先も長く愛していただけるクルマにしたいと考えて開発に取り組みました。おっしゃる通り、そのための投資もそれなりに大きなものです。フルモデルチェンジから12年経った今もご支持を頂いているとはいえ、デリカは日本市場だけで販売されるモデルで、販売台数も月に1000台前後です。そのクルマにこれだけの力を注ぐというのは、ある意味、本当に大きな決断です」
「ですが、デリカに乗り続け、買い替えるクルマもデリカしか考えられないとおっしゃってくださるお客さまが今も大勢いらっしゃいます。クルマが好きなそういうお客さまにしっかり応えることも、我々の使命なのではないかと考えています」
と、大谷さんが語るように、歴代デリカの開発者たちもきっと同じ想いを抱いてクルマ作りに取り組んできたのではないだろうか。デリカらしさをしっかり踏襲したという今回の開発では、開発者たちの熱い想いもしっかりと受け継がれていると言えそうだ。