小さなひとつひとつを地道に真摯に積み上げていく
ユニークなキャラクター性を守りながら、時代に合ったニーズを織り込んだ質感の向上や、動力性能の進化、さらには便利装備や先進安全装備の充実も図られた今回の改良は、マイナーチェンジという言葉ではくくり切れないほどの大きな進化を目指したものと言える。開発のとりまとめ役である吉岡秀記さんは、次のように語る。
「実際に乗っていただければ、想像以上の進化の大きさが実感できるはずです。たとえば乗り味もそのひとつです。新たに電動アシストを採用したステアリングはすごくリニアでダイレクトな操舵感が味わえます。揺り返しも少なくなっていて、運転する人は自分の運転がうまくなったように思えますし、2列目や3列目でも乗り心地の向上が実感できます。もしもご試乗する機会がありましたら、ぜひ、いつも通っている道路を走ってみてほしいですね。違いの大きさに驚くはずです」
足まわりについては、ショックアブソーバーのバルブ構造の見直しや、リヤのショックのシリンダーのサイズアップなどに加え、補強や剛性向上についての取り組みも行なわれている。この点について、開発当初から最後までプロジェクトに携わった中島嘉宏さんにうかがった。
「今回はフロントのデザインを大きく刷新していますが、そこでは歩行者保護の基準対応のために、フレームの長さや補強などをすべて見直す必要もありました。幾度の検討を重ねた結果、歩行者保護と操安剛性を両立するボディを達成。高剛性なボディと、シャシー部品の見直しによる相乗効果により、企画当初に目標としていたものを大きく超える操縦安定性が実現できたと思います」
乗り味については、8速ATの採用をはじめとしたパワートレインの改良・変更も見どころのひとつだ。
「新たに採用された8速ATは、静粛性を含めた乗り心地の向上を狙ったものです。6速から8速に段数が増えたことで、シフトチェンジがこまめになり、繋がりがより滑らかになっています。よりローギヤにしたことで発進性がよくなったほか、ハイギヤの8速で高速道路などでの巡航時の回転が低くなって静かになり、さらには燃費性能にも貢献するなど、乗り味と実利の両面のメリットを実現しています」
「エンジンについては、2.2Lディーゼルを踏襲する形ではありますが、ピストンの軽量化やフリクションの低減などによって、従来よりも最大トルクを高め、走りの余裕も大きくなりました」と、大谷さんも言う。また中島さんも同様にこう語ってくれた。
「静粛性の向上は苦労したポイントのひとつですね。基本設計が変わらないなかで進化させるためには、飛び道具的なアプローチは一切できません。ひたすら地道に小さなことを積み重ねるしかないんです。今回は、吸音・遮音のための素材の検討から、その面積を変えてみたり、さらにはエンジンルームとキャビンを貫通するパイプの穴のクリアランスなどについて、いかに遊びを少なくするかといった見直しを図るなど、やれることはすべてやりました」
「また、単純に静粛性を上げればいいというわけではなく、たとえば、車内での会話明瞭度が上がるような、特定の周波数が伝わりやすいノイズの排除にも取り組んでいます。静かなだけでなく、静けさの中身を意識してチューニングしているんです」