フロントエンジン・リヤドライブならなんでもOKではない
トヨタ86や次期スープラなどFR(フロントエンジン・後輪駆動)モデルは、走り屋のクルマ好きに人気が高い。世のなか、大半の乗用車はFF(フロントエンジン・前輪駆動)化しているのに、なぜFRにこだわるクルマ好きが多いのか。その理由がFRだからこそできる走りの楽しさがある。
FRの楽しさとは駆動後輪をパワーで空転させて姿勢をコントロールするパワースライド(いわゆるドリフト)走行ができるということに尽きる。ほかにも前後の重量配分がいいとか、ハンドリングがスムースだとか特徴はあるが、FRにできてFFではできないことはパワースライド走行に尽きる。つまりFRらしい走りに優れているとはドリフトを楽しめるかどうかだと言い換えてもいいくらいだ。
だからといってFRなら何でもいい、というわけではない。たとえばタクシーのベースモデルになった日産のクルー。クルーもFRだがドリフト走行を楽しむことはノーマルではできない(雪道や氷上でなら可能だが)。FRのドリフトとして求められるのは舗装路面でのハイスピードなパワースライドドシフト走法だ。これをきちんとこなせないならFRである意味の大半は失われていることになる。
FRモデルではフロントに搭載したエンジンから後輪に向かってプロペラシャフトを介して動力を伝えている。このプロペラシャフトは車体フロア下中央を通っており、普段は見る事がない。だからその存在を多くのドライバーは意識していないだろう。
しかし、プロペラシャフトを外して持ち上げてみたら、そのあまりの重さに驚くはずだ。後輪へ全駆動力を安全確実に伝達するためプロペラシャフトには最大限の強度と耐久性が課せられるため、重くなってしまうのだ。アストンマーティンのような何千万円もするようなスーパーカークラスならプロペラシャフトをカーボン化して軽量化できるが、普通乗用車では不可能。これまでにカーボンプロペラシャフトをFRに採用した国産車と言えばマツダRX-8とレクサスLFAくらいしか思い当たらない。
だがカーボン製プロペラシャフトを採用するだけで高速ドリフトがしやすいとは言えない。筆者の経験からすればRX-8もLF Aも自由自在に振り回せるバランスにはなっていなかった。