ユーザーの嗜好の変化も価格高騰の一因
そのうえで、ユーザーの嗜好もどんどんと高くなっていく。たとえば、軽自動車でも普通車並みの装備が求められるし、高級車も輸入車と同等の質感などが高められている。軽自動車だからペラペラでいいという時代にはもう戻れない。そうなると、コストがかさむのも当然だ。
ちなみに最近、日本車でも走りにこだわってザックス製のダンパーを装着する例が増えているが、担当者に聞くと一般のものと比べると驚くほど高いとのことだ。質は高まるが、価格だけで見るとかなり痛い。
最後に、自動車メーカーのコスト管理担当が口を揃えていうのが「結局はクルマが売れないのが一番大きい。買ってくれればもっと安くなる」ということ。売れないから高いというのはわかったような、わからないような感じだが、自動車というのはT型フォード以来、大量生産を前提としたもの。つまりたくさん作らないと安くならないのが宿命といっていい。例のT型フォードは大ヒットとなったために、どんどん売れ、どんどんと大量生産。価格は逆にどんどんと下がっていった。
この問題、自動車メーカーとユーザー間だけの単純な問題ではなく、メーカー側でも起こる。少し前にストックヤードに工場から出た完成車が野ざらしで放置、というニュースがあった。勝手な憶測がいろいろと出たが、あれは作らないと値段を維持できないという悪循環の現れだったのだ。
どういうことかというと、自動車メーカーはパーツメーカーと契約を結ぶ際に、これだけ買うからこれだけ安くしてくれという交渉をして価格を決める。それがクルマが売れない、つまり作らないからといって、途中でやっぱりそんなにいらない、では契約違反となり、価格は上がってしまう。つまり、当初の安いパーツ価格を維持するためにも作らざるを得なかったというのが、あの野ざらしだったのだ。
昨今の不祥事などで生産が停止したり、販売量が急に低下するのは、この点を鑑みると大ダメージだ。まさに卵が先か、ニワトリが先かの話だが、今まであった、同じものを大量生産して低価格を実現するというバランスがどんどんと崩れてきているのは確実である。
そのほか、人手不足による生産コストの増大(期間工の求人を見てほしい)など、車両価格を押し上げる要素はあらゆるところにある。ひとつひとつ見ていくと、よくこの価格で作れているなと思うことも。逆に安くなる要素というのはほとんどないというのが、正直なところだ。