FCVは将来性を見通せない状況にある
次に環境問題もある。ホンダが2008年にリース販売したFCXクラリティは、35MPaの水素タンクを搭載していた。すでにトヨタなどは70MPaの水素タンクを使いはじめていたが、なぜホンダは35MPaとしたのか。担当技術者はこう説明した。「70MPaとすると、水素充填の際にかえってCO2の排出量を増やし、気候変動の抑制につながらないからだ」。2倍の圧力で水素を充填するには、プレクールと呼ばれる冷却工程が追加になり、世界の電源構成比が火力で6割以上を占める今日、そこでエネルギー消費(CO2排出量)が増えるからである。
2016年に発売されたクラリティ・フューエルセルで、ホンダは、70MPaの水素タンクを搭載してきた。そこでCO2排出量増への懸念は払拭されたのかを聞くと、「状況は変わっていない。しかし、70MPaで水素スタンド普及がはじまったので、対応せざるを得なかった」と、技術者は答えた。70MPaの水素タンクを使うかぎり、FCVは究極の環境車とならない側面を持つ。
走行距離では、クラリティ・フューエルセルが一充填で750km(JC08モード)を走るとしたが、トヨタMIRAIは650kmだ。一方、日産リーフe+は570km(JC08モード)を走れる。WLTCでも、458kmだ。CO2排出量に適応した35MPaの水素タンクなら、EVに及ばなくなる可能性は高い。しかも充電器の数は、水素充填スタンドの225倍で、ガソリンスタンド並みである。
車両価格は、クラリティ・フューエルセルが約767万円で、MIRAIは約727万円。リーフe+は上級グレードのGでも約473万円である。車格の差があるにしても、それくらいないと構造も採算も見合わないのがFCVだ。
あらゆる面で、同じゼロエミッションを謳うFCVとEVだが、勝負にならず、乗用としてのFCVは将来性を見通せない状況にある。