近年のヒット作は子どもでも扱えるクジラナイフ
ここから目的地の高知市まではあとわずか。坂本龍馬人気だけでなく、高知には楽しいものが多い。お祭り好き、酒好きの県民だから、自分も入り込みやすい。市内の大衆食事処、ひろめ市場は相変わらずの人気で夕方覗いてみたら、観光客と地元の人が入り混じって大賑わい。カツオのたたきで一杯が基本だろうが、ここにはクジラや地元の魚、貝類も豊富でおいしいものだらけ。
ゆっくり寝て翌朝は、旅の目的のひとつ、土佐打ち刃物製作所を訪ねた。高知は包丁や農作業用のカマなどが有名で、高知城の近くで行われる朝市や刃物市も人気が高い。
今回お尋ねしたのは、高知県の「匠」に選ばれた伝統工芸士・山下哲史さんの工房「冨士源土佐打刃物制作所」である。ここは高知市内から近いところにある集落で、この地域は江戸時代のなごりで仕事の分業制が進み、鍛冶屋が集まっていた。ナタ、カマ、包丁、のこぎりなどの専門工房があり技術が洗練されてきた。また山仕事も盛んで、全国に山仕事の出稼ぎに行っていたところ、持参した刃物の優秀さが評判になり、全国から注文が来るようになったという。芸術品ではなく普段使いの逸品なのだ。
山下さんの工房は草刈などに使うカマが専門。わざわざ窯を熱くしてカマ作りの実演をしていただいた。独特のリズム感で槌を打つと熱せられた鉄が自在に曲がっていく。見事な職人技である「関東ではカマは片刃だが、高知は両刃、そのメリットは……」などと説明を受けながら見事なカマができあがった。そのリズム感が童謡の「しばしも休まず槌打つ響き……」だな、と思わず口ずさむ。
そんなカマの需要の近年は機械化で減少、何か役に立つものはないか、と考えて作り始めたのがクジラナイフ。子どもが使ってもケガをしないような工夫がされている。
山下さんは「後継ぎがいない」とおっしゃったが、こんな職人技はぜひとも今後に継承してほしいものだ。(後編へ続く)