ドアの上へのはみだしが日常生活の妨げに……
まずひとつには横にはみ出す量はわずかでも、ドアを開くときに上のスペースが必要という点が挙げられます。車高の低いスポーツカー、スーパーカーでは気にならなくても全高が1500mmを超えてくるとドアを開けるのに上部スペースを確保しておく必要が出てきます。ゴンドラタイプの駐車場などでは、実質的にクルマの乗降ができないケースが出てくるかもしれません。
また、高さ方向にボディの大きなクルマになるとガルウイングドアであっても開閉時の張り出し量が多くなってしまい、狭い場所でも開きやすいというメリットが、スポーツカーのガルウイングドアほどにはなくなってしまうことも考えられます。
そして、普及を妨げるのにもっとも重要なのは閉めるときに力がいることです。ガルウイングドアは、開いた状態で保持するためにしっかりとしたダンパーがついています。ドアを閉めるときにはドアを支えるだけのダンパーに打ち勝つ力で引く必要があるのです。AZ-1での経験でいえば、乗り込む際に片手でドアハンドルをつかんでおいて、座り込みときの体重移動を利用して閉める必要がありました。もちろん、テスラのように開閉をフル電動化すれば解決することですが……。
いずれにしても狭い場所でもドアを全開にできて乗り降りしやすいというニーズに対してはスライドドアというソリューションが普及し、スライドドアの電動化やリモコン操作、足によるハンズフリー操作などが当たり前の装備になっている現代において、少なくともファミリーカーにおいて、あえてガルウイングドアを採用するメリットはないといえましょう。
そもそもスポーツカーにおけるガルウイングドアというのは、通常のヒンジドアでは乗り込みしづらいほどサイドシルを高くしてボディ剛性を上げたことへの対応という意味があります。メルセデス・ベンツSLS AMGにしても、AZ-1であっても、それは共通した部分です。サイドシルを高く設計しないで済むようなクルマではガルウイングドアを採用する意義がないといえるのかもしれません。