値引きせずとも「売れる」いいクルマが作れている
マツダの国内販売では過去に、大幅値引きばかりがクローズアップされた“負の時代”と呼んでいい時期があった。そして、そのイメージがいつまでも足を引っ張って、「マツダは……」ということが長く続いたので、余計値引きに神経質になっているようにも見える。
筆者のあくまでも私見となるのだが、マツダがいま国内でやろうとしていることは、80年代のホンダの新車販売の様子と被って見えてくる。
80年代のホンダといえば、プレリュードなどのクーペだけでなく、ラグジュアリーサルーンのアコードにまでリトラクタブルヘッドライトを採用したり、F1技術を応用したりした独自メカニズムなど、まさに奇想天外なクルマが次から次へ登場し、日本のみならず、北米市場など世界市場でも注目され人気を博していた。
いまではN-BOXが日本一売れている軽乗用車となっているが、かつて1985年にボンネット軽自動車バンとして「トゥデイ」をリリースするまでは、一般ユーザー向けの軽自動車のラインアップはしばらくなかった。
ホンダのクルマ作りに共感を覚えた、文字通り“ホンダファン”がホンダディーラーへ赴き新車を購入していたこともあり、当時のホンダ以外のメーカー系ディーラーは多額の値引きを提示して販売していたが、ホンダ系ディーラーは明らかに値引きをあまり拡大せずに販売していた。
当時のホンダ車は割高イメージが目立っていたにも関わらず、値引きをあまり拡大しないで販売できた背景には、購入者のほとんどが「ホンダ車が心底気に入った」とか、「他メーカー車には興味がない」と思っており、それが大きく作用して“値引きは二の次”のような環境を形成していたのである。
マツダもここ数年は登録車系では、あえて売れ筋のミニバンのラインアップを日本国内でもやめ、魂動デザインとスカイアクティブテクノロジーという二枚看板で新車(登録車)をラインアップしており、その点では80年代のホンダとイメージが被って見えることもある。
そのようなこともあってか、なかなか販売苦戦の続く国内販売にあっても、2018暦年締めでの自販連(日本自動車販売協会連合会)統計を見ても、登録車のみの新車販売台数においてマツダは前年比でプラスをマークしている。
つまり、世間的には“マツダは値引きしない”といった都市伝説はあるものの、販売台数が落ち込むどころかプラスになっているということは、マツダのクルマ作りに共感を覚えて購入する、“マツダファン”が存在し、近年のマツダの開発信念が理解され、さらにマツダファンが増えていることを意味しているともいえよう。
ただ、商談の際に「値引きしない」とセールスマンがあえて上から目線で語るのはやはりイメージは良くない。作り手や売り手は性能が良く買い得感も高いと思っていても、買い手にそれを押しつけることになるからである。これからもマツダのクルマ作りに共感するひとを増やすような、真摯なクルマ作りを続けて行けば、都市伝説も自然消滅していくのではなかろうか。